私は晴れが好きだ。なんでかっていうと、エネルギーが溢れ出てきて、今すぐにでも外に出かけたい気持ちにさせてくれるから。そして、晴れた日の朝に走ることはとっても気持ちがいいから。
私は雨が嫌いだ。なんでかっていうと、どんよりするから。気分も気候も。そして、なんとなく頭が痛い気がする。でも、今まで生きてきた21年の中で、たった一度、たった一度だけこれ以上ないくらいに雨に感謝したことがある。
あれは4年前、私が高校3年生だったころの話――。
学校嫌いだったけど、3年時に入学当時からファンだった子と同クラに
当時、私は学校というものが大嫌いで、週に1回休むか遅刻をするのが当たり前だった。卒業まであと何日か指折り数えていたし、学校に着くとあと何時間で家に帰ることができるかばっかり考えていた。だから、教室に着くのはいつも最後で、帰るのはいつも最初。
あと1年でやっと卒業できると思った、3年生のクラス替えの初日。クラスの名簿にある男の子の名前を発見する。それは、高校入試の時に「なんてイケメンな男の子!!」と思った男の子で、私が2年間ひっそりとファンをしていた子だった。
しかも、出席番号は私のすぐあと。「こんなに嬉しいことはないわ」と思いながらも、同じ空気を吸っているだけの状態を3か月間過ごした。
3年生になって初めての席替え。まさかまさかその男の子と隣の席になる。「このまま空を飛べるんじゃないかしら」っていうくらいに私の気分は高揚した。その途端に、今まで大嫌いだった学校も、毎日行きたくてたまらなくなってきた。遅刻もしないし、欠席もしない。私の学校生活は、一気に楽しくなった。同じ空気を吸っている状況なのは変わりなかったのに。
勉強する彼と同じ空気を吸っていたくて、私も学校に残るようになった
でも、稀にあるグループワークや、隣の人と交換してテストの答え合わせをするとかいうシステムのおかげで、しばらく経つと、3日に1回くらい話すようになった。男の子は賢かったから、いつも学校に残って勉強をしていた。
今思えば、ストーカーだけど、私も男の子とできるだけ長く同じ空気を吸っていたかったから、学校に残るようになった。男の子は、集中して勉強をしているけど、私は男の子が何時に帰るのか考えることで精一杯。でも、結局いつもお腹が減って耐えられなくなり、男の子より先に帰っていた。
あれはある雨の日。いつものように私は勉強する男の子の背中を見ながら、教室を出た。下駄箱に行って、靴を履き替える。後ろに人影を感じたから、さっとどくと、そこには男の子がいた。そしたら「お疲れ様」なんて言ってくれた。私も、「お疲れ様」と返答して、なんだか外へ向かって一緒に歩きだしている私たちがいる。
「もしかして一緒に帰れてる?これ」と思って、心臓がバクバクする。ていっても駅までは徒歩2分。学校の玄関を出ると、男の子が傘を持っていないのに気が付いた。次の瞬間私は、勝手に自分の手が動いていて、男の子と一緒に自分の傘の下にいた。
雨は嫌いだけど、たった2分の素敵な記憶が最高に美しいものに変える
「すぐ着くからいいよ」って言われちゃったけど、「自分だけさしてるの嫌だもん」って言って、2分間だけ同じ空間を共有した。
たかが2分、されど2分。私には初めての体験だった。雨の音とあの時の事実だけが、私の記憶に残っている。残念だけど、あの時の私がどんなことを考えていたのか覚えていない。
雨が降るとどんよりする。頭も痛くなる。雨は嫌い、雨は嫌い。だけど、雨が降るたびに思い出す。
雨の音と事実を思い出せる限り、私は何度でも何度でも、この記憶を美化する。最高に美化できたときの、晴れた時のエネルギーは誰にも負けない自信がある。