皆が頑張ったテストの練習。全くしなかった私は98点取れた
「また100点かぁ!!すごいなぁ、お前は!!」
この言葉がとても嬉しかった。小学生の頃、私の成績はクラストップであった。
塾に通っていたわけでも、家で予習復習を頑張っていたわけでもない。学校から帰れば真っ先に外へ遊びに行き、家に帰れば夜ご飯。その後は、お風呂に入って家族団欒。後は寝るまでずぅっとテレビ。
まぁー、ひどい。いくら小学生とはいえ、こんなに自由奔放な生活が許されるものか。放課後に宿題に取り組んだという記憶さえない。それでも私の成績は良かった。
ある日、漢字50問テストが行われることになった。出題範囲とされた漢字の数は400以上。その中から、どの漢字が50個出題されるか分からない。テストに向けて、みんな漢字練習を頑張っていた。中には、練習ノート3冊分の勉強をこなした子もいる。
私はと言うと……。そもそも、そんなテストが行われるという事自体忘れていた。テストが始まる直前、先生が「漢字練習頑張った人ー?」と聞くと、ほぼ全員が手を挙げた。次いで聞かれた「じゃあ逆に、何もしてないよーっていう人ー?」という質問に手を挙げたのは、馬鹿正直な私と、クラス1勉強の苦手なA君だけであった。
“さすがに今回はひどい点を取るかな…”と、半ば諦めの気持ちでテストに取りかかる。数日後、テストが返された。先生によると、「クラスの最高点は1問ミスの98点」との事。誰がそんな超人的な得点をしたのだろう。漢字練習帳を3冊終わらせたというあの子だろうか…。そんなことを考えているうちに呼ばれた自分の名前。
返された答案を見て、目を疑った。右端に赤ペンで書かれた「98」の数字。間違いなく私の名前が書かれた答案用紙。この日以来、私はクラスメイトから「天才」と呼ばれるようになった。
天才と呼ばれた私には小さなころから「芸能」の道に進夢があった
ちなみに、私と同じく全く対策をせずにテストに挑んだA君は、期待を裏切ることなくクラス最下位であった。話が逸れるがこのA君、5人兄弟の長男で、めちゃくちゃ優しい。友達から夏祭りに誘われても断り、自分が保護者となって兄弟全員を夏祭りに連れていくような子だった。
私は父と祖母との3人暮らしであったのだが、2人もまた、この漢字テストの結果を大変に褒めてくれた。「やっぱり○○ちゃんはすごいね、天才だね!!」と。
そして私は……。当然、図に乗る。自分は勉強しなくてもいい点が取れるんだ、と。自分は天才なんだ、と。
そんな私には、小さい頃からの夢があった。勉強とは全く関係がないであろう、「芸能」の道だ。習ったことはないけれど、踊ることが好きだからダンスをやりたい。ドラマが好きだから役者になりたい。…というものだ。
だが、それは父には言えなかった。父は有名大学の出身であり、私にもそうなる事を求めていた。「○○ちゃんはここの高校に行って、ここの大学に入って…」と、何度も言われていた。私も世間を知らないのでそうするのが妥当なのだろうと思っていたが、私には不安があった。
ずっと父に言えなかった夢。いつか必ず叶えて、父に報告したい
この父親、プライドが高いため、職場で少しでも気に食わない事があるとすぐに仕事を辞めてしまうのだ。そのくせ、金遣いが荒い。その為、我が家の生活は極端であった。月一で旅行に行くような時もあれば、電気は止まり、給食費も払えず……みたいな時もある。
こんな経済状況の我が家に居ながら大学進学など、果たして叶うものなのか。そもそも高校だって、学費が払えずに途中で退学、なんて事もないとは言えないのでは。実に小学三年生の頃から、ふっ……と、そんな事を考えてしまい、不安で不安で仕方なくなったのを覚えている。
私が勉強に対して努力をしなかった1番の理由は、恐らくこれだ。日々の学習を本気で頑張って、高い偏差値の高校にも大学にもいける学力を手に入れて、最後の最後、家庭の経済事情が理由で進学が叶わなかった、なんてことになったら……。
その時はもう、立ち直れないだろう。絶望して、人生を投げ出して、大好きな父を心底恨むことになってしまうだろう。幼心にどうしてもそれを避けたかった。私は父に話すことなく、夢を心に隠した。
その後中学・高校に進学した私は、天才の面影がなくなっていった。それまでは100点が当たり前、悪くて90点だったテストで、70点代をザラに取るようになり、ひどい時にはクラス最下位まで取ってしまった
。
そんなテストの数々を、私は引き出しに隠した。高校は一応、いわゆる進学校に進むことが出来たが、その後やはり学業には打ち込めず、高校を卒業した後はフリーターとして堕落した生活を送っていた。
そして昨年、父が亡くなった。私には今、夢がある。ダンス未経験のダンスインストラクターになる事、芸能の世界を知ること、そして、東大に進学する事である。
この3つの夢を、父に伝えたい。そして、必ず叶えて、父に報告したい。
それが、私の暗い過去を払拭する、唯一の方法だと思っているのだ。