今思い出しても、高校時代の“ショッカク禁止”というルールは不思議だった。
“ショッカク”が全国共通か分からないので、念のため説明しておく。一つなり二つなりに後ろ髪を結んだ際に、ほんの少し残しておくサイドの髪の毛のことである。その姿が虫の触覚に似ているからか、どの生徒が言い出したのか不明だが、わが校ではその名で定着していた。
カタカナで書いたのは幾分か“触覚”より、グロテスクさが軽減されるのではないかと思ったためである。“ショッカク”のような、その学校特有の呼び名はどの学校にもあるのではないだろうか。
女子高生にとって、見た目は命であった。そこでショッカクが役立った
話を戻そう。私の高校は地方都市の公立校ということもあり、異様に校則が厳しいことで有名だった。肩につく髪の毛を結ぶことはもちろん(しかしポニーテールは禁止)、暑いからといって制服の上着を脱ぐこと禁止、水泳の授業後に小さいタオルを肩にかけることも禁止、カップルで登下校禁止(近所の住人から苦情が来たそうだ)などなど。理不尽だ。
そのなかで最も理解に苦しんだのが、“ショッカク禁止”だ。教師たちはその呼び名は使わなかったが、「コラ、その前髪の横からぴろーんって出てる髪の毛しまえ、見苦しいぞ」というふうに説教を垂れていた。
女子高生にとって、見た目は命である。いかに変ではないか、かわいく見えるかが最重要事項であった。そのなかで顔の面積を狭くしたいという乙女心を簡単に解決してくれるのが、そう“ショッカク”であった。ショッカクを作ることで顔のエラが隠れ、少しとはいえフェイスラインが細く見えた。
大人になった今は、楽な髪形が一番と思っているのでショッカクなんて不要だが、当時の私には周りの子たちより顔が大きく見えるのではないかという不安を取り除くことが先決であった。
私は「ショッカク禁止」に道理があるのかと疑問に思い、教師に尋ねた
ショッカクを堂々と出せるのは、教師が周囲にいない時だけ。びくびくしながら廊下を歩いていたあの姿は、さながらサバンナのか弱き草食動物である。職員室に用事があるときは、ご丁寧にしまっていた。
しかし、運悪く教師(特に身だしなみに厳しかった女性教師)に遭遇した時は(やっちまった……)、と思いながら説教をくらい、そっとショッカクを耳にかけるか、後ろ髪と一緒に結ぶなどしてしまった。「ドンマイ」と慰めの言葉をかけてくれる同級生もいた。
受験シーズンになって気が立っていたある日。赤本を解いていて分からないことがあったので、職員室にいる英語科の教師の元を尋ねる道中、ことは起こった。というか起こした。
先述の女性教師に出くわしてしまったのだ。御多分に洩れず説教をくらった。ふとこのルールに筋が通った道理があるのかと疑問に思い、その教師に尋ねた。「先生、なんでダメなんですか、理由はありますか」と。
案の定、女性教師は答えに窮していた。学校のルールなんてこんなものかと呆れてしまった瞬間だった。
学生の時は「自由を奪う校則」だったが、今思えば昔を懐かしむネタだ
受験シーズンなのに、見た目にこだわるなんてどうかしているという人もいるかもしれない。しかし、思春期真っただなかの女子高生にとっては、受験も大事だし見た目も大事であった。そこは理解してほしい。
当時の私は、教師たちは生徒を校則で縛り、自由を奪うことに喜びを見出しているとさえ思っていたし、こんなしょうもないことで、目くじらを立てる教師たちに憤っていた。しかし、今考えると笑えるし、なんせ高校時代の友人との昔を懐かしむ際のネタにもなる。大人になったな私。
街を歩いていると、ケラケラ楽しそうにお喋りしている女子高生たちを見かける。箸が転んでもおかしい年ごろとは、このことというような彼女たちの“ショッカク”は、今日も出ている。