不透明な未来に悩んだ夏。大好きな人にやっと「さようなら」が言えた

忘れられないあの夏は、今から3年前のこと。あのとき私は、大好きな人にやっと、さようならが言えた。
私はオタクだ。しかもかなり強火の。もう数えたりもしていないが、好きになってからたぶん、10年が経つだろう。コンサートやイベントには、何度も足を運んだ。こちらはちょっと、数えたくない現実かもしれないが。

あの夏、就活を意識し始めた頃、不透明な未来に自分でも驚くほど焦っていた。理想と現実は大きなギャップがあることに、今更ながら気付いたのだ。
こうして悩んでしまうとき、オタクな私は、好きなアイドルの歌を聴く。でもそれは、もっと自分を苦しめることだった。

2つ前の寒い季節に、大好きなアイドルのメンバー1人が亡くなった。悲しいことに、自ら命を絶ってしまったのだ。
信じられなかった。だって3日前に、ドームツアーの発表があったじゃん。兵役前最後のコンサートだって、言ってたじゃん。
お気に入りの音楽は、テレビで彼の訃報を伝えるBGMになった。悲しい詩じゃないのに、きゅうと心が締め付けられた。

最後のイベントの知らせ。「最後」に託けて、向き合う決心をした

「あなたがいなくなっても、世界は昨日と同じように回る。」
いつかラジオで言ってた彼の言葉を、こんな形で実感してしまった。
あのときのコンサートも、予定通り2月に行われたが、行けなかった。いや、正確には行くこともできた。だけどどこかで勇気が出なくて、4人になった彼らを見る自信がなくて、意味のわからない理由をつけて、そっと目を瞑ってしまった。

そして夏がやってきた。音楽は聴けるようになったけど、相変わらず油断をしたら涙が止まらない。そんな状況で、最後のイベントのお知らせがあった。これで本当に、一旦活動を休止するという。

急に、次の約束ができなくなる不安が過ぎった。見ないふりを続けることも、いよいよできなくなってきた。更新をすっかり忘れていたファンクラブへ入り直し、最後に託けて、無理矢理向き合う決心をした。

新調してしまった、青のノースリーブのワンピースが、よく映える日だった。
いつもより少し遅めに会場に入って、周りを見渡す。熱気あふれるたくさんのファンとは違う意味で、ソワソワして落ち着かない。それもそうだ。こうしてペンライトを握るのも、ほぼ1年振りになってしまったから。

さようならをしたあの夏は、これからも共に過ごすと決めた日になった

大きな歓声とともにステージが始まる瞬間は、いつの時も、はち切れそうになる。全ての体を使って音楽を表現する彼らが、見ている世界をカラフルに彩ってくれる。
その空間は、いつもと同じのようにも見えた。だけど彼がいない。彼の分の空白もない。

久しぶりで、楽しくて嬉しくて、しょうがないはずなのに、苦しくて堪らないのは、私だけなのだろうか。
イベントも終盤、会場にピアノのイントロが響く。大切な一曲に、思わず声が出てしまった。大きく手を叩いて歌っていた彼が、すごく好きだった。メンバーが集まり、固く手を繋ぎあった瞬間、

「そばにずっと いて欲しいんだ」
遥か上を見つめながら口にする、以前彼のパートだった詩は、ずっとずっと力強く感じた。

正直なところ、まだまだ傷は癒えていない。だけどカサブタくらいにはなったと思う。強く擦られると痛いけど、流れてくるものを止めることはできた。
それでいて、最近私は、傷跡が消えない。だからこれから先、傷を見るたびに思い出すことができる。

あの夏、確かにさようならをした。だけど、無かったことにするのではなく、これからの思い出も、ともに過ごすと決めた日だった。そばにずっと、いてくれるとちゃんと思えたから。