この4月、私は大学4年生に進級し、学生生活最後の春を迎えた。そして、6年お世話になった芸能事務所を退所することにした。
事務所からの帰り道、久しく開いていなかったTwitterをタップ。ぼんやり画面をスクロールしていると、あの子も新たな道を進もうとしていることを知った。

高校1年の夏の終わり、彼女と私は同じ芸能事務所への所属が決まった

彼女とは芸能養成所で出会った。
わたしと彼女は同い年の中学3年生、女優志望。別クラスに通っていた私たちが知り合ったのは、オーディション形式の合同レッスンだった。

彼女はフリートーク部門で1番、私は演技部門で1番の評価をもらい、帰りがけに「お茶しない？」と声をかけられた。

クラスの中心グループにいるような女の子だった彼女は正直、苦手なタイプで気乗りしなかったけど、シュッとした大人やカップルで溢れたおしゃれな街のスタバに引きずり込まれた。

中学生ながらしっかりお化粧をして、前髪もくるんとカールさせて見た目に気を遣っていた彼女に対し、私は適当な格好だったので居心地の悪さを感じた。でも、レッスンのことやら芝居の悩みやら何故か話は弾み、退店する頃にはすっかり仲良くなっていた。

そんな私たちは養成所を卒業後、同じ芸能事務所にお世話になることに決まった。名の知れた大手ではないけれど、経験豊富な社長とマネージャーさんたちがいる良い会社。
高校1年生、夏の終わりだった。
「未来の大物女優人生の幕開けだね」と笑いながら、駅前のスタバで祝杯を挙げた。

地下アイドルグループに加入した彼女。きらめく姿に私は顔をそらした

それぞれエキストラの仕事をしたり、さまざまなオーディションを受け続けていたある日、彼女は事務所が育成に力を入れていた地下アイドルグループに加入することになった。

正直、女優になるって言っといてソレかよと内心バカにしたが、誘われてライブを観に行った。彼女は加入して間もないのにファンがついていて、狭いステージできらめいて見えた。
思わず顔をそらして立ち去った。

私だってポツポツ舞台も出て、少しずつ良い役をもらえるようになってきたし、この前の映画はセリフありのエキストラだったじゃん。まだ、負けてない。大丈夫、これからなんだ。
そう言い聞かせて歯を食いしばって帰った。

あるとき、私が某食品会社の全国cmにメインキャストとして出演が決まった。
嬉しかった。だって彼女も受けていた案件だったから。

勝った。私やっと勝てたんだ。
放映が開始され、事務所に顔を出したとき彼女と鉢合わせた。今度は彼女が顔をそらす番だった。あなたがわけわからんオジサンに媚び売って、歌って踊ってる間に、私は行くよ。行くからね。

あなたのことは忘れない。それぞれの人生の第二幕、笑って会いたいな

でもその後、思うように仕事がつながらず、あっという間に波を乗り逃した。

彼女の所属するグループはワンマンライブの開催を積み重ね、彼女自身も単独生誕祭を成功させていた。きらめいていたのは彼女で、くすぶって置いて行かれたのは私だった。

焦りやら嫉妬やら恥ずかしさから逃げるように通知をオフにして、Twitterを見なくなった。
そういえばこのTwitterも彼女がやり方教えてくれたんだっけ。

事務所にも距離を置いて、フツーの大学生活をふらふら過ごす中で私は、芝居よりも心がワクワクする世界に出会ってしまった。たくさん悩んで、この春からはそちらの道を目指して頑張ることにした。

彼女は順調にやっているものだと思っていたから、Twitterを見て驚いた。どんな道を進むのかは、わからない。でも、きっと彼女も考えてのことなんだろう。

あのね、私あなたと出会っていろんな感情を知ったよ。夢を持ってそれに向かって走った日々のこと、あなたのことは忘れないと思う。違う道を進むけど、ぜんぶぜんぶ持っていくから。

いつかお互いまた自分の人生の第二幕を開けるとき、笑って会いたいな。会えるかな。
その時はまた、スタバで祝杯をあげよう。