お客様に喜んでもらえることを信じて、頑張った私に店長は言った

「あなたが頑張れば頑張るほど周りは息苦しくなる。そこまで求めてないよ」
これはアルバイト先の店長から言われた、私の心に深く突き刺さっている言葉です。
生まれてはじめてのアルバイト。それは小さなケーキ屋さんでした。

ケーキ屋に訪れるお客様はお腹が空いてやってくるのではありません。お誕生日だったり、記念日だったり……。「逆上がりが出来るようになった」「プロジェクトが無事に終わった」そんな特別な日にお客様は訪れます。

特別な日にここを選んでくれたことを嬉しく思っていました。そして特別な日をもっともっとかけがえのない一日にする力が、私にはあると信じていました。
ケーキの箱にイラストを描くともっと喜んでもらえるのではないか、と思いついた日は、すぐに文房具屋に足を運び、色とりどりのペンを揃えました。

洋菓子の試食を出すときは、より美味しさが伝わるように、特徴をノートにまとめ、どのように紹介すればいいか毎日のように考えました。
少しでもお客様の笑顔に繋がればいいな。そのためだったらどこまでも頑張れる。そう思っていました。

しかし頑張れば頑張るほど、他の従業員との間に溝のようなものを感じるようになりました。

理解されずとも、自分が納得して、お客様の笑顔に繋がればいい

私には周りが、ただ従業員同士で楽しく話して時給を稼げればいい。そう考えているように見えていました。
サボっておしゃべりするのは楽しいのかもしれません。その上にある一生懸命にやる楽しさにどうして気付かないのか不思議でした。

私自身が常に一生懸命働き、その楽しさを行動で見せていこうと思いました。だからサボっている人をよそに必死で働きました。
そんなとき言われたのが冒頭の言葉です。
誰に理解されなくても、自分自身が納得できればいい。お客様の笑顔に繋がればいい。そう思っていたのにいつしか頑張ることが怖くなっていきました。

そのまま月日がたち、職場が変わってもそれは変わりませんでした。そして上司から「今どきの若い子は言われたことしか出来ないよね」という言葉を投げかけられました。
違う違う違うと、心の中で何度も繰り返しました。
今までマイノリティでも自分自身が納得できる道を選んできたつもりです。指示がなくとも、自らで考え行動できる。やりたいことに真っすぐに突き進むことができる。どこにもカテゴライズされない私の道を築きあげてきたはずが、いつしか見失っていました。

「頑張りたい」と「もう頑張りたくない」の気持ちを繋いでくれた先輩

上司の言葉を笑ってごまかすことしができない自分自身に嫌気がさしました。
頑張っていた私へ。ごめんね。繋いできたバトンを受け取ることはもう怖いです。
追い抜かされても、転んでも、意地でも放さなかったそのバトン。それは未来の私が手を伸ばして待っていたから。そう強く強く信じていたから。だから何があってもそのバトンを放さなかったのに、試合を放棄して逃げたなんていったらどんな顔しますか?自分自身への裏切り行為ですね。

頑張りたい、もう頑張りたくない。この相反する気持ちが互いに膨らみあい、整理できなくなっていきました。どっちが本心か自分自身でも分からない。そんなときに、ある先輩の姿が目に入るようになりました。

彼女は、愛想は決してよくありません。教えるときも言葉足らずで、休憩時間でさえ物静かで話しかけづらいです。たくさんの仕事を一人で抱えていて、プライベートも返上し、仕事に費やしています。不器用で、無愛想で、でも誰より一生懸命で誠実に仕事に取り組むその姿に私は心惹かれていきました。

彼女を前にして、手を抜いている自分自身が恥ずかしくてたまりませんでした。頑張ること。それは確かにリスクが伴うことです。それでも私はそのリスクをおかしてでも全身全霊注ぐべきだったと思いました。

頑張りたい、もう頑張りたくない。この二つを彼女は繋いでくれたのです。
こんなこと、本人にいうと図々しいなんていって呆れた顔して笑うかもしれませんが、彼女と私は似た者同士だと思います。一人で抱えてしまうところ、周りに上手く頼れないところ……。

私自身が楽しむことで、頑張りが報われる環境を作っていきたい

私は「周りに頼って」「休んでね」と言われることがストレスでした。私にとって信頼できる人は私自身しかいなかったからです。自分自身でやるしかない、そう思っていました。「頼りないから頼れないんだよ。頼れるなら、休めるなら、とっくにやっているよ」と心の中で悪態をついていました。頼って、休んでという言葉に何も意味はないと考えていました。

しかし、彼女にその言葉をかけてしまいました。本人の心ではなく、頼れない、休めないという環境を変えなくては。そう分かっていたはずなのに。

自分自身が彼女にとって頼れる人になればいいと頭では理解しながら、何も役に立っていないもどかしさをぶつけてしまっていたのだと思います。それと同時に、いままで私にその言葉をかけてきた人の真意に気づきました。心配してくれていたのだと初めて優しさとして受け止めることが出来たのです。

いまはまず早く一人前になって、彼女の役に立ちたいです。彼女の背負っているものが少しでも軽くなればいいなと思います。
そう願うようになってあることを思い出しました。

私はあのケーキ屋も今の職場も大好きだということを。大好きな場所を失ってしまうことが怖いから、頑張りたいときにブレーキがかかること。そして、私の大好きな場所が一緒に働いている仲間にとっても大好きな場所であってほしいと祈っていること。

だから、この仕事はこんなにも楽しいんだよと、私自身が楽しむことで示していきたい。誰もが働きやすい環境にしていきたい。頑張っている人が報われる社会であってほしい。何かが報われるためにやっているのではないとしても、頑張っている人が頑張って良かったと思えるところであってほしい。

次々と今後、目指していきたい景色が浮かび上がってきました。
また頑張りたい。素直にそう思いました。
私にはまだ実現したい目標があります。口下手でも、日々の姿でいろんなことを学ばせてくれる素敵な先輩がいます。

未来の私。待っていてください。もう一度、この手でバトンと繋いでみせます。