最初から一人だけはみ出し者だった。
私は部活をやるために高校を選んだ。その部活とは、マーチングをメインとして活動する吹奏楽部だった。
中学3年生の時には、その吹奏楽部でカラーガードをやると決めていた。

6人の同級生。仲良くなった彼女たちは「サボらない?」と提案してきた

先輩たちは10年以上バトンを習っていた私を大歓迎してくれた。入学式から2週間後、カラーガードには6人が集まった。
AとBは私の隣の隣のクラス。CとDとEは違う棟にあるクラスの友人同士だった。彼女たちは新入生歓迎会で、かわいいユニフォームを着て、華麗に踊る先輩たちの姿に魅せられて入部したようだった。

最初は2つのグループがそれぞれに固まり、私はどこに身を置いていいか分からなかった。
しかし、練習は平日の放課後2時間半と土日の9時から16時。女子高生が仲良くなるには十分な時間があった。部活終わりに化粧をしてプリクラを撮りに行ったり、ファミレスでポテトとドリンクバーで4時間近く、恋バナに花を咲かせることもあった。

大会が一通り終わった12月、3年生と2年生話し合いの結果、学年のリーダーはC、サブリーダーは私となった。

1月、定期演奏が終わると3年生は引退した。
ある日の練習中、休憩時間になるといつものように1年生で円になり、おしゃべりを始めた。

「ねぇ、最近先輩たちムカつかない?みんなでサボらない?」
突然、Dが言い始めた。どの部活でも1つ上の先輩との軋轢が生まれるのはよくあることだ。3年生がいなくなってほんの1週間、隠れていたそれが姿を現しはじめた。たしかに、先輩たちに対してイラつくことは0ではない。

しかし私は、それが実行されることはないだろう、とたかを括っていた。Dは先輩達を困らせて行動を改めさせたいようだったが、あの7人の先輩たちは困らない。この1年で先輩達7人の結束力や意地の強さをまざまざと見せられてきた。やりづらくなるのは、私たちの方だ。

みんな冗談半分に言っているのだろうと軽く聞き流していた。

予想を反して結構されたボイコット。ドロッとした感情が浮かんできた

それは予想を反して、翌日に決行された。
昼休み、AとBが教室に来た。
「私たち今日、部活休むね。病院行くってことにする。アミは行く?」
私は勘が悪すぎた。今まで休むことを事前に言ってきたことがあっただろうか。
「そっか。私は部活行くよ。」
そのまま、ふたりは教室を出て行った。

いつも通り部室に向かった。ドアを開けると先輩たちはすでに半数以上集まっていた。
「今日アミ以外の1年休みだって。」
パートリーダーの一言が頭の中でこだまする。
(マジか……他の3人も来ないってことだったのか)

いつの間にか涙が頬を伝っていた。
「ど、どうしたっ」
先輩たちがこちらに駆け寄ってきた。
「多分ボイコットです」
その日の練習は急遽話し合いに当てられた。

昨日1年生で話していたこと。AとBが「病院にいくことにする」と言ったこと。ボイコットするような人達と残り2年間一緒に部活をしたくないということ。7人の先輩達になだめられながら、すべてを告白した。

しかし、これは半分の本心、もう半分はドロっとした自分でも直視したくない気持ちがあった。

「これでリーダーになれる。」
パートリーダーの「アミ以外の1年休みだって」という言葉を聞いた瞬間、私は内心ガッツポーズをしていた。

部活の姿勢に差がある彼女がパートリーダーになることが許せなかった

学年のリーダーは、3年生になるとパートリーダーになることになる。
許せなかったのだ。
この1年間、練習が終わればすぐに帰ってしまう仲間の裏で自主練を続けていた。

入試を受ける時には入部を決めていた私と、かわいいユニフォームに釣られて入部した5人。部活に対する姿勢に差があることは歴然としていた。
努力の甲斐あり、大会では2年生に混じって1年生で1人だけ踊ることができた。

他の1年生が待機している姿を横目に優越感に浸っていた。
そんな私がサブリーダーなんて。

私を責める人はいなかった。
彼女達は「本当に体調が悪かった」「ボイコットのつもりはなくて、偶然みんな休んだ」と言ったけど。先輩達は聞く耳を持たなかった。

私は「彼女達はボイコットしたのだ。私はそれが許せないのだ」と一生懸命に自分に言い聞かせた。
翌日、パートリーダーに話しかけられた。
「続けたいって子もいるけど、どうする?これはアミが決めていいよ」
私は迷うことなく、「もう一緒にやりたくありません」と伝えた。迷ってしまうと、自分の表面化させていない方の感情を見破られてしまう気がした。関係を再構築できる自信もなかった。

卒業して10年。あの選択をしていなかったらどうなっていたんだろう

5人は60人の吹奏楽部員の前で退部報告をした。報告するときにスカートを短くしていたものだから、部長に60人の前で怒られていた。

私たちはいつも通り練習場所に向かった。
「アミには技術面だけ集中して欲しかったんだけどねぇ。こんなことになってごめんね」
先輩達と肩を並べて歩いていると、パートリーダーに突然謝られた。目の前が一瞬、暗転した気がした。

先輩は私以上に私のことを考えていてくれていたのだ。5人を裏切っただけでなく、先輩の気持ちまで裏切ってしまっていた。

私は残り2年間の部活生活を平均的に楽しく過ごした。
もちろん先輩達にムカついたり後輩とぶつかることもあった。部活と受験の両立に悩んだこともあった。その度に、「ボイコットなんてやめよう」とあの時言っていたら、先輩達に告げ口をせずに練習に向かっていたら、今同じ学年の仲間がいたら、と思わずにはいられなかった。

高校を卒業してから10年、未だに彼女達の夢を見る。あの時あの選択をしていなかったら、どんな未来が待っていたのだろう。