「まあ、生理は大変だと思うけど……とりあえず何かあったら言ってね」と、気まずさと苦笑いを隠しながら声をかけてきたのは、20歳ほど年の離れたアルバイト先の店長だった。
その瞬間、私は数日前に起こったであろう出来事をハッキリと理解した。きっと私の母は、アルバイト先に“生理痛のこと”を話してしまったのだ。そして、その電話を受け取ったのが、アルバイト先の男性の店長だったというわけ……。
生理痛がひどくて、母に「バイト先に電話してほしい」と伝えたら…
高校生の時から生理痛に悩まされることが多かった。衝撃波みたいに、ドカンとくる痛みに襲われることもあれば、ジワジワとやってくる痛みと鉛のように体が重たい日もあって、それでも薬を飲みながらであれば、アルバイトもできたし、学校にだって行けた。
ただ、その日は、いつもと違って、やる気もでないし、体がだるい。起き上がるのも精一杯。そこで母に思い切って、アルバイト先に電話をしてほしいと伝えたのだった。アルバイト先では2年ほど働いていて、お店の人との信頼関係は築けていたし、そもそも体調不良などで休める環境ではあったので、自分で電話をかけてもよかったけど、その選択すらできない状況だったと思う。
だけど、そのたった1回の選択が、後にまさかの出来事引き起こすなんて……ベッドでうずくまっていた私には考えることができなかった。
店長に声をかけられた後、脳内にはきっと起こったであろう数日前の出来事が、まるで自分がその場にいたかのように、鮮明に映像として映し出されていく。恥ずかしくて、消えてなくなりたいような気持ちを押し殺して、なんとか振り絞って言った「すみません。ありがとうございます」という言葉と、あの時に感じた気持ちは、10年近くなった今でも鮮明に思い出すことができる。
先輩がかけてくれた「生理痛の痛みがわかる」と言葉に救われた
私はその瞬間から、“生理でバイトを休んだ女”になってしまったのだ。もちろん、それが悪いことだとは思っていないし、本当に生理痛がひどくて、歩けない状態だったので、嘘をついたわけでもなければ、それは事実でしかない。何も隠すことなんてないのに、恥ずかしくてたまらなかった。
たった1回の休みのせいで、アルバイト先で築き上げた人間関係も、信頼関係も“生理のせい”でなくなってしまうんじゃないかと。当時の私には、怖くて仕方がなかった。
その日は、今すぐにでも消えたい感情を押し殺して、無の感情で働いていた。そして、お店が落ち着く時間になったとき、レジの前でお客さんを待っていると、後ろから女性の先輩が声をかけてくれた。「私も生理痛、ほんとうにひどいから気持ちわかるよ…」と。
声をかけてくれた先輩は、基本的に雑談をしない人で、“後ろから声をかけられるイコールさっきの業務の指摘”だと思い込んでしまい、結構ビクッとしてしまった。でも、先輩がかけてくれたその言葉には、ただ“生理痛の痛みがわかる”という意味だけじゃなくて、きっと店長に言われたことの恥ずかしさをわかってくれたんじゃないかと感じられるような言葉で、話しかけてくれる眼差しは本当に優しかった。
生理痛は人それぞれ違うけど、「共感」してもらうことで救われる
正直、「店長は私が生理で休んだことを先輩に言ったんだ……」とも思ってしまったけど、別にその先輩以外の誰かに言った確証もないし、その言葉で私は元気を取り戻して、いつも通り働けたので、「まあいっか」と思えた。それに、今思い返してみると、店長も店長で、どうしていいかわからなかったのかなとも思ってしまう。
恥ずかしくてたまらなくて、今すぐにでも消えていなくなりたいと思った日だったけど、先輩がかけてくれた“共感”の優しさに救われた私は、それ以降、もし生理でしんどい思いをしている人がいれば、できる限りサポートをしてあげたいと思えるようになった。
生理痛の辛さや、痛みは人それぞれ違うだろうけど、たった一声「今、この瞬間の辛さがわかる」と言ってもらえるだけで、救われることがあるんだと感じた、忘れられない10代の生理の思い出。