コントロールカラーのグリーンの下地で肌の赤みやムラを消す。内から出る艶感を出すためにお粉の前にハイライトをしこむ。
アイシャドウを何色も混ぜてイエローベースの肌に馴染むヌーディな色を作る。
お気に入りの絶妙なカラーのリップをつけたらお粉をのせてマスクの中でも落ちにくく、マットな質感に仕上げる。

誰も分からないであろうくらいのひと手間、もうひと手間を。

SNSではフォローしている美容垢から流れる情報をキャッチする。
新作のコスメの発売を首を長くして待つ。レビューを何本も見ては買い足しを考える。
そろそろブラシとパフのお手入れをしないとな。
メイクは当たり前のように私の日常に溶け込んでいる。

歳を重ね、毎日メイクをするうちにメイクとの距離は少しづつ変わった

昔はメイクがあまり好きではなかった。不器用が表面化される、怖いものだった。 
上手くアイラインを引かなければ。作った二重がばれないようにしなければ。
変だと思われていたらどうしよう。なんであの子は上手に出来るんだろう。
メイクをしていても何かしら不安だったし、楽しむなんて全くできなかった。
コンプレックスの塊だった私は、鏡で顔を見るのも苦痛だったから、上手くなりたくても練習や研究が思うようにできなかった。
それでも毎日メイクをして、歳を重ねるうちにメイクとの距離は少しづつ変わっていった。
20歳を過ぎた頃から、メイクは私に勇気を与えてくれる魔法のような、時には安心できる薬のような存在になっていた。振り返ればいつもメイクと共に思い出がある。

好きな人と至近距離になっても大丈夫なように厚く塗ったファンデーション。
どうしても受かりたい面接の為にほどこした就活メイク。
泣く覚悟を持ってあの人に会いに行った日のアイメイク。

それらは当時の私をたくさん助けてくれたなあと思う。それと同じくらい無理をしたし、メイクにもたくさん無理をさせたな。
本当はしたくないこともしたし、肌にかかった負担も大きく、頻繁に肌荒れを起こしていた。
もちろん肌荒れを治す方法も良く分からず。

魔法でも薬でもない、メイクは日常にナチュラルに馴染んでいる存在

たくさんの失敗をして、大人になった今は、また少し違う。
自分に似合わないメイク、肌に負担をかけてしまうようなメイクは極力しない。
今まで不器用なりに研究してきた技術で、少しずつ色味を足して、隠し味をプラスする。
コンプレックスはなめらかにカバーしつつ、褒めてもらえるところは出来るだけ生かすように。
今は不器用でも使いこなせるアイテムがたくさんあるし、SNSの美容垢が教えてくれる情報も取り入れることができる。
たまに肌荒れを起こした時も自分に合うアイテムで、落ち着いて対応ができるようになった。

メイクでなりたい自分を具現化していくことは変わらない。でももう無理はしない。
昔とはまた違う距離感だ。そして何よりメイクをすることが今はとても楽しい。
魔法でもなければ薬でもない、日常にナチュラルに馴染んでいる存在になった。

なにかきっかけがある訳じゃないけれど、色んな夜も朝も共に乗り越えてきたからだと思う。
実際メイクを始めて十数年間の間に、どれだけコスメを手放しては、新しいものを取り入れただろう。どれほどの人と出会ってさよならをしてきただろう。
たくさん失敗をして、自分を知った。自分に関わったものも、人も、愛してきた。

新しいものも取り入れて、古いものも愛するように付き合っていきたい

今でも思い通りにならないことはたくさんある。
相変わらず眉毛はうまく描けないし、どんなにメイクが上手に出来たって、叶わない恋があることも知っている。
それでも自分にしっくりくるリップを持っているのは心強いことだし、今の自分の気分にぴったりのメイクが出来たときは、気持ちも前を向く。
これからも誰かと関わって生きていきたいと思う。

新しいものも取り入れて、古いものも愛して。
これからもそうやって付き合っていきたいな。
心地よい毎日を送れるように。自分も、関わってくれるものも、人も、愛せるように。