メイクなんて、全く興味がなかった。子どもの頃から、ノーメイクで何処かに出かけるのだって、当たり前の事だし普通の事だと思っていた。
周りの女の子達の中には、背伸びしてメイクをする子もいたけれど、私は「メイクは会社で働く大人がするもの」だという漠然とした考えを持っていた。だけど、妹は違った。
メイクは女性にとって「必要最低限の身だしなみ」と妹が教えてくれた
三つ歳の離れた妹は、中学生のうちからメイクやお洒落を自分で研究していた。ちょっと近くのコンビニやスーパーに出かけて日用品の買い物をするだけなのに、いつもナチュラルメイクに時間をかけていたのを覚えている。そんな妹を見て、「メイクは大人が働く会社でするもの」だと思い込んで疑わなかった私は、「今時の女の子は皆そうなの?」と首を傾げた。
高校生になったある時、私はリアルでも仲の良いSNSのフォロワーさんと、舞台観賞で東京に行く事になった。するとその日の朝早くから、妹が「舞台を観に行くなら、もっと身だしなみをちゃんとしなきゃ。もうすぐ大学生なのに」と言ってきた。
その言葉で気付いてしまった。メイクは女性にとって、必要最低限の「身だしなみ」であるという事に。今までのように、髪を洗ってシャワーを浴びてお風呂に入り、こまめに爪を切ったり歯を磨いたりして、ただ清潔にしていれば良いというものではなかったのだ。
清潔を保っていたって、メイクをしなければ将来困るのは自分なのだという事を、ようやく理解した。
「今日は特別にうちがメイクするから」と妹によるメイクが始まった
「じゃあさ、今日は特別にうちがメイクするから」と妹の発した一言がきっかけで、当日の朝、彼女によるメーキャップが始まった。
鏡の前に座らされ、ヘアアイロンで髪を整えられ、化粧下地にファンデーション、コンシーラーを塗ってフィニッシュパウダー、アイブロウ、アイシャドウ、アイライナー、ビューラーでまつ毛を上げて、ハイライト、ノーズシャドウ、チーク、リップ、仕上げにネイルを施される。
そこに、中学生の妹はいなかった。私の目の前にいる彼女は、十代のメイクアップアーティストで、メイクの先生だった。
メイクをした私は、良い意味で何もかもがいつもの自分と違っていた
妹による完璧なメイクを施された私は、会場に到着するや否や、現地で会ったフォロワーさんに「なんか今日、いつもと違って可愛いね」と言われた。お手洗いに行って、鏡を見てみれば、透明感と艶のある肌に、キリッとした眉と目尻、優しいピンクの頬に落ち着いた色の赤い唇。本当に、良い意味で何もかもがいつもの自分と違っていた。
すると何故だかとても嬉しくなって、時間をかけて丁寧にメイクしてくれた妹と、メイクの力に感謝した。
「お姉ちゃんは奥二重だから、アイラインを引くのが難しいんだよね」「ブラウン系とかナチュラルメイクって、結構時間がかかるんだよ」とか、メイクをしながら、顔のつくりや色の使い方を詳しく説明して教えてくれた妹。
今、私も大学生になってから自分でメイクをするようになったけれど、やっぱり妹には敵わない。だって「先生」なんだもの。