私のメイクデビューは20歳、大学3年生の頃でした。今から6年ほど前の事です。
かなり遅めのデビューだという事は、私自身ももちろん、自覚しております。

その頃にメイクに目覚めたという訳ではなく、就活の為に仕方なく始めたという、何とも受け身な人間です。
それまでは、大学に行く時も、バイトに行く時も、いつもノーメイクでした。口紅くらいはつけた日もあったかもしれません。

成人式の時はどうしたんでしょう?晴れ着ですから、恐らくメイクを施したのでしょうが、誰にやってもらったか、一向に思い出せない。そのぐらい、私のメイクへの関心は、若者の政治に対する興味・関心レベルと同等くらいのものでした。

勧められたままに化粧品を購入。義務感にかられた化粧生活を続けた

周りの友達は、皆メイクをしているというのに、どうしてこうもメイクに対する関心が低かったのでしょうか。
そもそも、ファッションや美容に疎かったから?
いや、お洋服は小さい頃から大好きでした。

当時好きだった人に、「俺は、○○(私)のスッピン良いと思うよ」と言われたから?
そりゃあ嬉しかったですが、振り向いてくれない人の一言を、後生大事にするような、まさかそんな女じゃありません(笑)。

ともかく、就活を始めるにあたって、見よう見まねでメイクを始めることにしました。
若者向けの店がたくさん集まるファッションビルの1階に行き、「初めてなので、一式そろえたいです」と伝え、お店の人に丸投げしようとした私。

「ご予算は?」と当たり前のように尋ねてくる店員さん。どうもそのお店は、いくつかのブランドが入っているコスメショップだったようで、私の予算に合わせて、どのブランドを勧めるか、決めようとしているようでした。

当然っちゃ当然。むしろ、粋な計らいといったものです。レストランに行ってワインのボトルを入れる時、ちゃんと予算を聞いてくれると、こちらもホッとするものです。

でもこの時の私は、化粧品の相場が分からない。一式揃えるのに、幾らと答える事が無難なのか分からない。「えっと、初めてでよく分からないのですが、5千円とか1万円くらいですか?」と、保険をかけて幅のある回答をした私に、嫌な顔せず商品を選びにいった店員さん。選んでくださったブランドは、資生堂の「インテグレート」。若者向けの定番ラインですが、その時の私は、資生堂の中にも色々なラインがある事自体、初めて知りました。

人生初のメイク、大学生だからお金はそんなに無い、以上を踏まえると、店員さんは最適なチョイスをしてくれたと、今では思います。大した金額を購入する訳でもないのに、その店員さんは、メイクのやり方を、1つ1つ丁寧に教えて下さいました。

なるほど化粧というものは、不器用でも最低限何とかなるものだと、あの時感じたものです。

そうして勧めてもらうがままに購入した化粧品を、教えてもらった工程に従い、律儀に毎日使い始めました。
ところが、化粧のやり方には慣れてきたものの、一体化粧にどんな意味があるのかは、一向に分からない。化粧前と後で、どう変わっているのかさえ、自分自身では全くピンと来ない。困ったものです。

私の義務感にかられた化粧生活は、無事に就職先が決まり、大学を卒業する間際まで続きました。

パリで訪れたコスメブランド。リップ1本を手にレジへと向かった

卒業式目前の春休み、卒業旅行でパリを訪れました。
何となく手持ち無沙汰になり、あてもなく街を散策していると、街のあちこちに、とあるメイクショップがある事に気付きました。
名前は「SEPHORA」。パリ発、日本未上陸、世界最大級のコスメブランドだという事は、帰国後にネットで調べてから知りました。

入口に恭しい扉もなく、程よくお客さんで溢れていたので入りやすく、ちょっと見物してみる事に。日本にいたら、何か買おうとはならないタイミングですが、旅行とは不思議なものです。初めて訪れたヨーロッパという事もあり、「1つくらい、何か買ってみようかな」、という気分になりました。

と言っても、今まで勧められた化粧品しか買った事がない。フランス語も英語も出来ないから、店員さんにレクチャーしてもらう勇気もない。という事で、基本的には、好きな色・似合いそうな色で選べばALL OKなリップで、勝負をかける事に決めました。

一面に、ずらっと並び、番号が付されたリップ。さすが、パリなだけあって、日本人だったら絶対手が出ないような、そもそもこんな色のリップが存在するんだというような、青系やら紫系、白や黒のリップまである。奇抜な色のリップを横目に、私は無難そうなピンク系統のリップを1つずつ取り出して、手に少し塗ってみました。

だが、ここでもやはり、分からない。リップでさえ、日本で買い慣れていない為、どれが似合うのか、ましてや何が違うのかすら分からない。そうこうしているうちに、段々と店が混んできたので、「多分、全然似合わない事はないだろう」と感じたピンクのリップ1本を手に、足早にレジへと向かいました。

リップで感じた初めてのワクワク。私とメイクの距離が少し近くなった

新しいものを買うと、早く使ってみたくなる質で、翌朝、いつもの義務感メイクのあと、元々持っていたリップは使わずに、昨日買ったリップを開封しました。

蓋を開けると、そこに現れたのは、昨日見たピンク……ではなく、紫色のリップ。あれ?私、ピンクのリップを買わなかったっけ?急いでたから取り間違えたかな?それとも、ピンクのリップの在庫の所に、間違って違う番号のリップが置いてあったのかな?
真相は分かりませんが、その時の私には、紫色の、いかにもパリっ子なリップを使ってみるしかありません。

口に持っていくと、日本製の化粧品にはない、独特の香り。日本ではぽってりとしたグロスが流行っていた時代に、マットなテクスチャー。ちょっと背伸びして母親の口紅を塗ってみる小学生のように、不慣れな手つきで、その大人びたリップを塗ってみました。

「あ、でも、結構似合ってるかも」
塗った直後に感じたのは、意外にも「ワクワク感」。リップ1本で、こんなに印象が変わるんだと、初めて実感した瞬間。

私にとって、メイクとの距離が少し近くなったような、そんな瞬間でした。