また「す」と言われた。見知らぬ男性に。
その「す」は、ほとんど吐く息の音で、わたしはその「す」を聞くだけで一日どんよりした気持ちで過ごすことになる。

「ぶす」と言われたんだ。
そう確信してしまう。

見知らぬ男性によく言われる「す」。「ぶす」と言われたんだなと思う

実はついさっきも、「す」と言われた。
ごみ出しのついでに、海のほうまで散歩に行った時の帰り道。梅雨晴れで、ほどよく汗もかいて、散歩はいいな、なんて気分も晴れやかに歩いていたら、「す」である。
「す」と言った男性は、フットサル場の受付にいた方。
換気のためかドアが開いており、路上にいたわたしと目が合った。
その直後、受付の男性は「す~」と言いながらドアを閉めた。

また「す」と言われた。見知らぬ男性に。
ほとんど吐く息の音だった。「す~」という感じ。
ただそれを聞いた瞬間、体が硬直する。正直、いまもこわばったままだ。まだ動揺していて、キーボードを打つ手も震えている。
歩きながら、硬直した心で、「ぶす」と言われたんだな、とおもった。
数メートル引き返して、問いただそうかとも思った。「ぶす」と言いましたよね、と。
ただそんなことしても相手は否定するだけだろうし、なんなら鼻で笑われそうだし、おかしなクレーマーみたいだし、バックヤードで「さっきブスがさ~」とネタにされそうだし……と思ってやめた。
そのあと住んでいるマンションにたどり着き、ロビーの鏡で自分の顔を見たら、テカったすっぴんと丸メガネとずれたマスクでたしかに「ぶす」だなと思った。

思い込みや息を吐いただけと考えたりもするけど、やっぱりおかしい

夜の散歩でほとんどすれ違う人もいないから、マスクを外して歩いていたのだが、そのことの後ろめたさみたいなのもあった。
受付の男の人はぴったりした黒いマスクを付けていて、わたしは顎まで下げている。どこかに「マスク外してるけど大丈夫かな」というびくびくした気持ちがあって、おまけにわたしはフットサルをするような体育会系の男性が怖い。だから目が合った時に委縮してしまった。
その一瞬のすきを狙って、向こうは暴言を吐いてきたのかもしれない。びくびくしていたもんだから、「ぶす」と言われても仕方ないと、ひどい悪口だが受け入れてしまった。

ほんとうに「ぶす」と言ったのか? 思い込みじゃないのか。びくびくしていた故の幻聴じゃないのか。
そう思う人もいるだろう。
わたしも100パーセント確信しているわけじゃない。
「す」って言っただけかも、息を吐いただけかも、と考えたりをする。
「ぶ」と「す」だったら破裂音の「ぶ」のほうが音のインパクトは大きいはずで、その「ぶ」が聞こえなかったということは純粋に「す~」と息を吐きだした可能性が大きい。

でもなぜ? なぜ息を吐きだすのか?
いや、呼吸は大事だけれど、吐く方の息は吸う息と違って意識しないと長くできないし、
数メートル離れていたわたしにも聞こえるくらいの呼気っておかしい。
わたしは推理する。
男は意図的に「す~」と言った。わたしに聞こえるように、絶妙なタイミングで。
あえて「ぶ」は言わなかった。言っていたとしてもものすごい小さな声で。
男は聞かれるか聞かれないかの悪口、そのスリルを楽しんだのだ。

すれ違いざまに「す」と言ってしまう理由を教えてくれませんか?

いや……。被害妄想つよい!と言われそう。自分でも書いていてうんざりした。
でも、見知らぬ男性からすれ違いざまに「す」と言われること、ものすごい多いのだ。300回くらいある。
そしてはっきりと「ぶす」と言われたこともある。3回くらい?
そのうち2回は追いかけていって喧嘩した(見知らぬ男性です)。

男の人に聞きたいのですが、なんであなたたちは、すれ違いざまに「す」と言うのですか?
女性に言われたことはないのだ。そして男性でも、知人に言われたことはない。
いつも決まって見知らぬ男性。
「ぶす」と言っているのか、それとも全く別の理由があって、「す」と言っているのか。
ほんとうに知りたい。わたしの被害妄想かもしれない。それともあなたたちの悪意かもしれない。
「ぶすじゃないじゃん」というフォローが訊きたいわけではなくて(もちろんその優しさは歓迎するけど)、すれ違いざまに「す」と言ってしまう、その理由を教えてくれませんか?
そしてわたしのほかにも「す」が聞こえる人、いませんか?