化粧が嫌いだ。
たとえ女性にとってそれがマナーであると世間が叫ぶなら、私は耳を塞ぐ。化粧をしない私に誰かが「だらしない」「女なんだから化粧位しろ」と後ろ指を立てるのならば、その指ぽきりと折ってやる。

高校生までは化粧禁止だったのに、大学生になった途端に化粧が当然に

その感覚を覚えたのは大学生になった頃だろうか。
高校生までは化粧禁止が私達にとっての絶対的なルールだった。
同じクラスの派手な子が、色付きリップを持っているだけで咎められる……そんな秩序が支配していた。誰もがニキビ浮かぶ肌、純な色の唇、げじげじ眉毛。
それが大学生になると、授業を受けに行く、という根本は変わっていないのにも関わらず皆が皆髪を黒から栗色に染め、ファンデーションで肌を白くし、赤いルージュを塗りたくり、目の上に煌めきと淡い色を乗せていた。
これが大学生なのか!と私も下手くそな化粧で通学した。高校教育までで教えられていないのに、周りの子はどうして18歳から19歳の間でそんなに変われる化粧技術を持っているのかと驚き嘆きつつ。
でもすぐに化粧をやめてしまった。
面倒というのが4割と、この行為が好きではないというのが6割。
そもそも化粧ってなんの為にするのだろうと思った。
異性のため?自分のため?
私はなんの為かが見いだせなかった。
異性のため……他人の為なんかに無理して手を震わせ、アイラインを引くのは馬鹿馬鹿しい。
自分のため……化粧をして気持ちが上がるのならばいいけれど、私の場合は憂鬱さが勝る。
それなら世間の「女は化粧しないといけない」「高校生は子供で大学生は大人だから化粧しないのは恥ずかしい」という流れよりも、自分らしくしようと化粧をやめた。
そのほうがずっと楽で、行きやすく、私らしかったからだ。
しかし事あるごとに化粧をせざるを得ない節は訪れる。

就活や入社でメイクをせざるを得ない状況になり、いやいや化粧を再開

大学四年生になり、就活講座では『内定をとれるメイク術』を教え、さも化粧しないと内定が取れない空気を醸した。仕方なく就活中は化粧をしたが、ボーイッシュで化粧っ気の無い友達は素肌のまま内定をいくつも取っていた。
極めつけは入社してからである。
就職した金融会社には事細かな服装のマニュアルがあり、それは男性より女性のほうが圧倒的に項目が多かった。
男性なんてスーツ、ネクタイ、革靴に無地の靴下、髪型は黒で短めとかそんなもの。
女性はパンプスのヒールの高さ、ファッションは学校の校則の様にスカート丈からネックレス、イヤリング、指輪とアクセサリーの種類、ストッキングの厚さ、髪の長さが決められ、
そしてメイクについてもファンデーション、アイメイク、リップと色や派手さの細かい指示があった。
その規定には「ノーメイクは禁止です」とあり、いやいや再び化粧をして出社した。
会社の同僚は私の稚拙な化粧を度々揶揄し、笑いものにした。
アイラインの線がガタガタとか、眉毛を書くのが下手くそでまるでバブルの頃の眉毛みたいとか、ファンデーションがまだらだとか、そういう些細なこと。
些細な人と違うこと、世間一般の女性像にはまらない部分に指をさされて笑われた。
悲しさや怒りよりくだらないと感じた。

女性だけれど、化粧を好きではない私の存在も、もっと認めてほしい

女性だからといって、化粧をしなくてはならない、化粧が好きでなくてはならない、そんなことはない、そんな型にはめようとしてくること自体くだらない。
化粧をやめた。化粧をやめた私を誰もが呆れた眼差しで見て、「女性失格」というレッテルを貼った。
仕事は楽しかったが女性らしさ、化粧をしない女性は女性ではないという空気が息苦しく、会社はやめた。
私は今、執筆業の傍ら接客のアルバイトをしている、コロナのお陰ですっぴんにマスクをしながら働けるが、もしコロナが落ち着いたらまた女性は化粧をすることを求められるだろう。そうしたらここもやめるのだろうかと頭の片隅で思いつつ、働いている。
最近化粧をする男性も増えている。そんなタレントもテレビで多く目にする。
「男が化粧なんて」「気持ち悪い」「男らしくしろよ!」という人もいるが、若い世代を中心に性別問わず自分らしく、世間の常識や多数派に飲み込まれず生きやすく生きることを認めつつある。
私は化粧をする男性も素敵だと思う。
そして化粧をしない男性もいいと思う。
化粧が好きな女性も可愛い。
でも、私は女性だけれど化粧が好きではない。
けれど決して男になりたいわけではなく、女性失格の烙印は不名誉だ。性別で男だからこう、女だからこうではなく、自分がこうしたいからこうする。
でも化粧を好きではない私の存在も、もっと認めてほしいのだ。