「私のかわいくない友達がかわいくない友達のことを死ぬほど『かわいい』って言ってるのむかつく。かわいくないんだもん嘘言うなよ」
たまたま見つけてしまった女友達の裏垢。
「自分がかわいくない自覚あるのに、日々かわいいかわいい言われるのもしんどくないんかね」

友人の裏垢を見つけて、彼女の優しさと、自分の容姿の現実に泣いた

高校の卒業式が終わって数日、新生活に向けて心を弾ませていた時だった。
おしゃれで美人で、服選びやメイクの相談にもよく乗ってくれる優しい彼女。普段抑え込んでいたであろう感情を爆発させていた。
「ここでしか言えないし、言わせて」
ぱっとせずニキビだらけの顔、スタイルもよくない、メイクもしたことない。彼氏もいたことない。自分に自信がなかった。「かわいくない友達」は確実に私のことだった。

思っていても何も言わずにいつも付き合ってくれていた彼女の優しさに泣いた。反面、自分の容姿の現実を思い知って泣いた。
そして、友達の裏垢を見るなんて最悪の行為をした癖に、感情をぐちゃぐちゃにして悲劇のヒロインぶる自分の卑しさに泣いた。

私の自信のなさ、その一番の原因はメイクだった。
ただメイクをすること自体には興味があった。メイクが得意な友達が瞼に載せたアイシャドウはきらきらと眩しかった。
苦手なのは、化粧品のパッケージだった。高校生の身分で使えるお金なんてたかが知れている。買える化粧品といえばお手頃なプチプラ一択である。

ファンシーショップの化粧品コーナーは、ギラギラとデコレーションされていた。そこに並ぶ商品も負けじとギラついたデザイン。私にはその輝きが耐えられなかった。
「女子なら当たり前にこういうの好きでしょ?」
暗黙のルールが敷かれた場所に足を踏み入れることができなかった。
「ああ、もっとシンプルなものがあればメイクしようと思うのになあ」
踏み出せない私はメイクとの距離感をいつまでも詰めようとせず、連鎖的に服にも興味を持てず、異性とかかわることも避けていた。

「女子失格」の烙印をドラッグストアのポイントに変えた、1本の動画

「女子失格」。私は私に烙印を押していた。押して押して押しまくった。裏垢発見で特大の烙印を押した。
大学入学では変わるかと期待したが、変わらなった。

これからもずっと烙印を押し続ける、そう思っていたが、転機は突然訪れた。
2020年、コロナが大流行し、家で過ごす時間が増えた。息抜きにYouTubeを見る時間が増えた。
いつものように流し見をしていると、ふと、1本の動画が目に留まった。小学生のころから大好きなアイドルグループのメンバーの一人が自身のメイクのやり方を紹介する動画だった。

彼女は自分のコンプレックスをメイクでカバーしていた。鼻の高さ、ニキビ、肌色。そしてごく自然にポジティブにメイクをしていく。紹介される化粧品はぎらつきすぎずシンプル、けど女性らしいかわいさのあるものばかり。
私は食い入るようにみていた。何度も何度も何度も。コンプレックスをカバーした彼女の笑顔は最高にかわいかった。
「そうか、メイクってコンプレックスを隠すためにしてもいいのか。ギラギラしてない化粧品もあるのか」

目からうろこ落ちまくりだった。と、突然動画がフリーズ。画面が真っ黒になった。
映ったのはニキビだらけ、目にクマができた私だ。
「顔色悪!」
驚き、興ざめした。けどそれも一瞬。
「あー、メイクしたい。化粧品買いに行こう」
ドラッグストアに向かって走り出していた。押し続けていた烙印はドラッグストアのポイントに変わった。21歳になっていた。

メイクに興味を持つと意識が変わり、笑顔をほめられることが増えた

転機が訪れてから半年。メイクに興味を持つと不思議なもので、洋服・髪型・アクセサリー、連鎖的に以前は向けていなかった意識を向けるようになった。
肌荒れを治すために、皮膚科にもちゃんと通院し始めた。眉毛サロンにも行った。
そしてなぜか笑顔をほめてもらえることが増えた。そしてその変化が楽しい。

もちろん劇的に美人になったわけではなく、パッとしない顔のままだ。恋人も絶賛募集中だ。
けどなんか楽しい。かつて感情を裏で爆発させていた彼女もこの文章を見るだろうか。
アカウント名はすっかり忘れた。見てくれたのなら伝えたいことがある。
「ここで書いてごめん。裏垢も見てしまってごめん。卑怯なことしてごめん。嫌ったってかまわない。けれど、それでも友達でいてくれるならお願いがあります。私に似合うメイクってどんなのだと思う?」