「都合のいい関係」。そんな言葉が頭に浮かんだ。
その言葉が暗に意味するセックスフレンドのように、つかず離れずの距離感を保っているし、特別な思い入れもない。そのくせたまにすごく求めたくなるのに、自分の思い通りにはならない。
私とメイクとは、そんな関係だ。

化粧品への憧れがない私。大学入学前にメイクを教えてもらったけど…

幼いころから、化粧品に対する憧れはそんなになかった。「女の子の夢が詰まった」と表現されるようなおもちゃのドレッサーを欲しいと思ったことなどない。
それよりも鬼ごっこやドッジボールがしたい。かわいくされるためにじっとしているなんてごめんだった。

初めてメイクをしたのは中学生の時。その道に詳しい部活のチームメイトが私にマスカラとチークをつけアイラインを引いてくれた。
私が一重まぶたで目が細いことを普段からいじっていた彼女たちなので、「○○(私)がメイクしてる~」と言い、写真を撮っていた。

嫌だったというほどではないが、その出来事に対してそんなにいい印象はない。15歳の誕生日に、その子からはマスカラをもらった。

高校卒業後、大学生になるにあたってさすがに化粧を覚えなければいけないと思い、近所のドラッグストアの美容部員のお姉さんに「なんにもわからないので教えてください」と声をかけた。

お姉さんはその場で私に、レクチャー交じりのフルメイクをしてくれた。
仕上がった後に「どうですか?」と聞いてくれたが、正直に言って何も感じなかった。ワクワク感はなく、むしろこんな面倒なことをいつもしなければいけないのか、みたいな複雑な気持ちだった。

そのときおすすめされて買った化粧品一式は、家に帰って冷静になってみると身の丈に合っていない気がして、未使用のまま返品した。

私にとってメイクは「外に出るときのマナー」ウキウキすることはない

そんな私でも回数をこなしていけばなんとなく慣れた。好きな人を含めた複数で出かける予定ができると、張り切ってメイクの練習なんかしてみた。
それでも、フルメイクで出かけたのに、友達に「なんでいつもアイラインしか引いてないの?」と聞かれたときは軽くショックを受けた。これまで面倒だと思いながらもなんとか自分なりにやってきたものも、ほかの人から見ればそんな感じなんだ、と。
彼女がコスメ大国である韓国の出身ということもあるだろうが、それにしても。

社会人デビューをマスク姿で果たした今、普段はそれこそアイメイクしかしない。
朝のメイク時間を、その日1日をしっかり生きていく為のモチベーションにしている人もいるのだろうが、私は1分1秒でも短くしたい。無駄なことは一切したくない。

こんな風なので、私にとってメイクは「外に出るときのマナーとしてのもの」で半ば義務のような位置づけで、楽しみやウキウキ感は一切ないドライな関係を持っている。
店頭のかわいいコスメに吸い寄せられることはあっても、それを買うことはない。使ってみたいともあまり思わない。巷にあふれる、メイクの仕方をレクチャーした雑誌や動画には目もくれない。

ウキウキしないメイクなのに自分の都合で呼び出したくなることもある

そんな相手に対しても、「今から会えない?」と唐突に呼び出したい気持ちになることもある。
メイクの上手な、顔立ちのはっきりした友達と遊ぶとき。遠距離の恋人と久しぶりに会って一緒に出かけるとき。ハレの日に特別な服を着るとき。

せっかくの気合を入れたい場面でも、いつもとほとんど変わらないシンプルメイクしかできない。普段からやっていないのだから当たり前だ。
それなのにこういう時にだけ、自分を最大限引き立たせるような素敵なメイクができたらよかったのに、と心底思ってしまう。

普段から関わろうともせずにほったらかしておいて、そうやって「欲しい」と感じる一時の感情で詰め寄ろうとするなんて勝手だ。
わかっている。
これを異性相手にやられたら私は怒るだろう。二度と会ってやらないと思うだろう。

これから何かのきっかけでメイクに目覚める日が来るのだろうか。
メイクで自信を纏うとはよく言うが、私は今のままだったとしても、化粧品の力を借りない魅力を纏っていたいと思う。