私は今職場の同僚に恋をしている。年上の、女性の、同性の同僚だ。
普段から恋バナをするのが苦手な私の恋は、より人に言いづらいものだった。

某アイドルのファンをしている私は、最初、この人に対する感情は推しだと考えていた。
近くで見たり、話したり、楽しい時間が多かった。恋なのかなぁくらいにしか思ってなくて。それでも良かった。

好きな人の同居人を見たとき、頭がぼんやりとして力が抜けていった

その日、職場の先輩がこっそり教えてくれた。私が好きな彼女には女の同居人がいて、その人が店に来ている。
衝撃だった。

特徴を聞いて、必死に仕事をしながら同居人を探した。
ついに仕事が終わるまでその人を見つけられなかったのだが、退勤の時間が重なり、彼女を含め、何人かでの帰り道。店の通路を歩きながら話していた。話しながらもしきりに携帯を気にする彼女。

「お疲れ様でした~」
1人別のドアからそそくさと帰って行った。
怖かった。なぜだか怖くて、あとを追えなくて。追っては行けない気がした。でも気になって、ずっとその背中を目で追っていた。

彼女から少し遅れて店から出て、先輩と話していると、彼女の車が駐車場をぐるりと一周して、私の横を通っていったのが見えた。
運転の時しかかけていない眼鏡姿の彼女が見たかった。
その奥には聞いた通りの特徴をした同居人がいた。

「見た?」
職場の先輩が聞いてきた。

あぁ、あの人のことなんだ。頭がぼんやりとして、力が抜けていくのがわかった。へたり込みそうになりながら先輩と何気ない話しをかろうじて続けて、帰り道で別れた。

恋愛経験のない私に初めて訪れる感情。泣くことしかできなかった

バスの中で友人にLINEをした。その子には唯一この同僚に対する感情を話せていたから。助けて欲しかった。恋愛をしたことがない私には、この状況でどうしていいのか分からなかった。

「どうしよう。彼女には相手がいるのかもしれない」
こんなことで悩むことになるとは思っていなかった。
「一緒に帰ったのかもしれない」。そう文字を打つ指は小刻みに震えていた。
「まだ分からないよ。大丈夫だよ」。優しい言葉を返してくれる友達の文章が滲み出していた。
「泣きそう」

バスを降りて、家路に着いた私はもうほぼ泣いていて、家の扉を開くと同時に我慢の限界でへたり混んだ。

何をするにもしんどくて、ご飯も食べず、キッチンの床に座り込んだ。
「泣いたらいいよ。今日は我慢しなくていいよ」
友達からの返信に、気持ちが切れて泣いた。

こんなに泣くなんて可笑しい。頭で考えながら涙は溢れていた。枯れるんじゃないか。そう思っても、何時間経っても涙は溢れていた。
ただただ、泣くことしかできなくて。彼女に聞くのも怖くて。

何が悲しくて泣いているのかも分からなくなった。自分以外の人と仲良くしている事実になのか、彼女には特別な関係の人がいるかもしれないという憶測になのか、彼女の近くにいさせてもらえない事実になのか。

これが恋。いつか「好きでよかった」と思える瞬間が来ますように

気づいた時には部屋は暗く、余計虚しかった。私はまた、声を殺して泣くしか出来なかった。彼女の横顔が思い出される度、息が苦しくなった。

あぁ、私は彼女のことが好きなんだ。これが恋なのか。初めて知った。
泣きすぎて、涙を拭いすぎて、パリパリに乾いた顔を鏡で見てわかった。
過去のちょっとかっこいい同級生を見て湧いていた感情なんか屁でもなかった。あんなもの子供のままごとだった。

こんなにも彼女のことを好いていたなんて。泣けば泣くほど彼女のことが恋しい。
今はまだ、彼女の隣にはいられないし、あの時の同居人が恋人なのか、友達なのか、聞く勇気はまだ私にはない。

同性を好きな私を認めて、今は彼女と距離を縮める努力をして、いつか彼女の1番傍にいられる存在になりたい。
そう願って、時々あの号泣した、初恋を知った日を思い出す。恋愛未経験者の私は少しでも強くなれただろうか?
いつかはあの日を思い出して、笑える日が来るだろうか?

実りづらいこの恋がどうか、悪くない形で、好きでよかったと思える期間になりますように。
そう願って、彼女に会うために私は明日も出勤する。