手洗い、うがい、消毒、マスクの着用、密を避ける生活が当たり前になってから、感覚的にはもう何年も経っているように感じる。
ワクチンが普及してから大学にもサークルにも対面で通えるようになって、親しくなった同級生や先輩、後輩も増えた。華の大学生活を謳歌している……と書きたい所だが、大学生になって初めて、厄介な感情を知ってしまった。恋だ。
オタク趣味の私にとって恋は無縁だったけど、意識する出来事が
私は大学ではメディア文化を専攻していて、インカレで都内の大学のサークルに所属している。どちらもマニアックな趣味を持つ学生が多く、オタク趣味のある私にとってはとても居心地が良い。
勿論、「誰と誰が付き合っている」なんて話題は出てこない。自分も色事には興味がないので、あまりしない。男性の多い場所に居ても、変な気分には全くならない。ところが、コロナが落ち着いてきてから全ては始まった。
まず、キャンパスの友達に恋人が居る事を知った。彼女は同じ学部の違う学科に所属していて、キャンパスに来てから最初に仲良くなった友達だ。
歳の離れた恋人との幸せそうな惚気話を聞かされたその時、「素敵な関係だなぁ」とうっとりしている自分が居た。
だけど、私には恋心なんて誰に対しても芽生えないのではないか、という考えは変わらなかった。それからしばらく経って、またもや恋を意識するようになった。しかも、サークルで。
突然の恋バナにドキッとした。恋をしていないのは学生らしくない?
それはオンラインでのイベントが開かれた時の事だった。
いつものように先輩や同期の仲間とお喋りをしていると、仲間の一人が突然、恋バナを始めた。サークルでは普段あまりそういった話題はしないので、心臓がドキッとした。
彼につられて、他の先輩方も恋バナをし始めた時は困惑した。サークルで一番仲が良い友達も、頼りになる先輩も、恋人が居た。
「もしかして、恋をしていないのは学生らしくないのだろうか」
そんな風に考えてしまった。人を好きになると、どうなってしまうのか分からなくて不安になった。
4月。緊急事態宣言が解除され、やっとサークルの対面での活動が再開した。参加人数こそ少ないものの、私は先輩方と一緒に公民館を借りて活動を楽しんでいた。その中には、恋バナが好きな先輩も居た。
会話をしていると、何かの弾みでその先輩の口から「結婚」という言葉が飛び出してきた。「安定して暮らすっていうのを考えると、結婚も一つの在り方だよね」と。
「孤独死だけはしたくない」と他の先輩も口を揃えて言った。それに関しては、私も同感だった。だけど昔の私なら、「孤独死しても構わない」と思っていただろう。
少女漫画のようなときめきを…。コロナ禍でも、恋は始まるはず
私は元々、人と関わるのが苦手だった。発達障がいの特徴のせいでコミュニケーションを取るのが不得意で、基本的にいつも独りで読書をするのが好きな子供だった。
歳を重ねるにつれて対人関係の苦手意識は減ったけれど、大学と社会という広い世界を知ってからは更に考え方や価値観に大きな変化が生まれた。
人との関わりが増えてから、誰かと一緒に行動する事が楽しくなり、巣籠もりでオンライン授業を受ければ言い様のない寂しさを感じるようになった。
独りぼっちでも構わないという思想は、大学に入ってからいとも簡単に崩れたのだ。
今は独りぼっちがこんなにも寂しい。恋人と遊びに行った、テーマパークに行ったとSNSに書き込む友達や先輩を見ては、少しばかり羨んでしまう。コロナ禍でも愛を育み、青春する彼らは見ていて眩しい。きっと彼らの方が、勉強に明け暮れる私なんかより青春を謳歌しているんじゃないかと思う。
青春の形は人それぞれだけど、たまには私も、少女漫画みたいに胸がときめくような経験をしてみたい。コロナ禍であっても、恋は始まると信じているから。