別れ話もリモートで。心のマスクを外し、初めて彼と本音で話し合えた

私の初めての恋愛は、コロナ禍で始まり、コロナ禍で終わった。
一本の電話で、終わらせた。
別れた理由を一言で表すとしたら、何だろう。
喧嘩をしたわけでも、他に好きな人ができたわけでもなかった。
もしこれがゲームだとしたら、リセットボタンを押したくなった。
「価値観が合わなかった」
別れた理由のトップ3には入るであろう、ありきたりな回答。
価値観なんて合わなくて当たり前。つい最近までそう思っていた。
でも、コロナ禍の恋愛で、価値観というものは絶対なのだ。
恋愛未経験の私は、価値観という洗礼を受けることになる。
単刀直入に言ってしまえば、コロナに、彼に、合わせる自分が嫌になったのである。
繰り返し出される緊急事態宣言。ずっと頭から離れることのない自粛という言葉。
次はここに一緒に行こうね。約束も虚しく、コロナによって破られる。
これは一体何のためにとった希望休だっけ?
会ったら会ったで、落ち着いて食事もできない。早く店内から出なければ。彼も混雑を気にしている様子だ。
ということは、外でしか会えないってこと?
じゃあもう、喫茶店に入らなくてもいいよ。飲み物でも買って外で話そう。
これでいい。これが正解。そう思っていた。
私に限界が来るのは、遅くはなかった。
「色々考えたんだけど、別れたいです」
メッセージを送る。
この時は、もう一杯一杯だった。
このメッセージを送った次の週に、会う約束をしていた。
本当は、面と向かって別れ話をしたかった。
でも、このご時世に、別れるためだけに会うことは不要不急なのでは?
だから、私はメッセージを送った後、電話で別れ話をした。別れ話もリモートだ。
桜が咲き始める、3月末頃のことだ。
私が我慢していれば一緒に桜を見れたのかもしれないと思うと、胸が苦しかった。
電話の向こうにいる彼は泣いていた。
優しい人だった。良くも悪くも正直で、私の言ったことを否定しない人だった。
彼に何を話したか、よく覚えていない。
コロナに対する考え方が違うとか、このまま一緒にいてもプラスにはならないとか、そんなことを言った気がする。
最後だと思ったら、どんどん言葉が出てきた。
怒ってもいいのに、彼はただ聞いていた。考えてみれば、怒られたことなんて一度もなかった。
私の悪かったところを言って欲しい。そう言ったら彼はこう答えた。
「最後までいい子だったよ」
たくさん迷惑をかけた。初めての恋愛で右も左もわからなかった私だ。
一体どこがいい子だったのだろう。
今だから言えるけど、彼に渡そうと買っておいたバレンタインのチョコレート、他の人にあげたんだ。
渡そうと思っていたんだ、でも会えなかったから。賞味期限が危ないから、他の人にあげたんだ。
その日、私はもう待ち合わせ場所にいたんだけど、会えないことになったから、右手を塞いでいるチョコレートの紙袋が本当に邪魔に感じたんだ。どっかのロッカーにぶち込んでやろうかと思ったくらい。
そんな私でも、いい子だろうか?
電話を切る前、彼はこう言った。
「大事だったよ。幸せになってほしい」
あいつ嘘言ってたんじゃないかって後から疑われたら困るから言っておくけど、と照れた感じで付け加えていたのが印象的だった。
別れ話をする時、初めて本音で話し合えた気がした。心のマスクを外して、話せたような。
いい子ぶった結果、全てをリセットしたくなって、別れてしまったことを反省はしているけど後悔はしていない。
コロナ禍だったけど、彼と過ごした時間はかけがえのないものだった。
電話で言えなかったから、ここに書こうと思う。
ありがとう。幸せになってね。
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