私にとって恋愛とは、相手への好意如何に関わらず、尽くすものだった。

相手から好意を寄せられて始まった関係だとしても、「私なんか」を好きになってくれたのだから、捨てられないように尽くさなければいけない。お互いに尽くすことが恋愛だと、ずっと思っていた。

たとえそれで、友人たちからやつれただのなんだの言われても、尽くすことだけが、愛される唯一の方法だと信じていた。

彼は私の声音や些細な態度から、「不安な気持ち」に気づいてくれた

それが崩れたのは、一年半前のこと。今付き合っている恋人と付き合いだしたのは、コロナが流行する直前。最初の緊急事態宣言は、付き合ってちょうど三ヶ月が経った頃に発令された。ちょうどそのタイミングで、私は彼の友人に紹介される予定が入っていて、さてどうしようか、と二人で頭を抱えた。

私は持病を抱える祖母と同居していて、自分自身あまり体が丈夫ではない。コロナがそもそもどういうものか未知数だった去年、かなり神経質になっていたと思う。

一方の彼は、基本的に楽観的。コロナに対しても、かかる時はかかるから、最低限の対策だけしておけば……という考え方。彼の考え方も分かり始めていたから、不安は押し殺してでも、彼の友人に紹介される飲み会に参加しなくては、と決意を固めていた。

でも、彼にはそんな私の不安や決意などはお見通しだったらしい。「不安でしょう?おばあちゃんのこともあるし、本心を教えてほしいな」と彼は深夜の電話口で優しい声をかけてくれた。それに思わず、ボロボロと涙が溢れた。

だって私は彼に、「不安だから行きたくない」だなんて一言も言っていなかったのに。彼は私の声音や些細な態度から気づいてくれたらしい。

「すれ違ってしまうのが怖い」と泣く私に、彼が言ってくれたこと

今までの元彼たちだったらきっと、気づいてはくれなかった。否、気づいていて、それでなお従順でいようとする私をそのままにしていたと思う。この人は、私を搾取する人じゃない。今までの私の恋愛は、自分で自分をすり減らすようなもだったんだと、この時不意に理解した。

「お友達に紹介されるのが嫌なんじゃない。君のお友達に会ってみたい。でも、おばあちゃんのことを考えると、正直言って怖い」と 泣きながらようやく不安を吐露した私に、彼は「そりゃそうだよ」と優しい声で笑ってくれた。面倒だろうに。

緊急事態宣言が出たら、会えなくなるね。どうしようか。そんな話を電話で長々と話した。彼が私にプレゼントしてくれたゲームがあったから、それを電話しながらプレイしようよと彼は笑ってくれた。

「会えなくなることですれ違ってしまうのが怖い」と泣く私に、「その分たくさん声を聞こう。会えなくても、気持ちが離れないようにすることはできるはずだよ」と言って、彼はたくさんの案を出してくれた。

物理的に離れてしまう危機感があったから、話し合う大切さを知った

そうして、私と彼はいろいろな価値観や考え方を共有した。分かり合えない時も勿論ある。でも、「年齢も育った環境も違う二人だから仕方ないね、折衷案を探そう」と毎回彼は笑ってくれる。

コロナ禍で彼と恋をしなかったら、もしかしたら私は、彼に対しても尽くして尽くして、すり減って、ボロボロになって早々に別れていたかもしれない。けれど今、私と彼は、あの日以来大きな衝突もなく、穏やかに過ごしている。来年には、一緒に暮らす予定だ。

物理的に離れてしまう危機感があったから、私たちは話し合う大切さを知った。気持ちがつながっていたって、言葉がなければすれ違ってしまう瞬間はある。だって、言葉にしないと心のうちは分からないから。

とにかく腹を割って話し合うこと。どちらの価値観も否定だけはしないこと。分かり合えない部分も理解すること。これから先、長い時間を過ごす予定だから、コロナ禍で学んだことを忘れずにいたいと思う。