彼と私が初めて会ったとき、すでにコロナは日本に来ていた。
「近々出張があります。その帰りにお会いすることはできないでしょうか」
そう彼からメッセージを受け取ったのが、2020年1月の上旬だった。

現実逃避したくて始めたTwitter。そこで繋がったのが彼だった

26歳を過ぎた頃、恋人に別れを告げ、婚活を選んだ私は苦戦していた。
誰からも選ばれない無味乾燥した現実から逃避したくて、Twitterを始めた。
容姿も、年齢も、学歴も、年収も何も気にせずにいられる場所がほしかった。
そこで繋がったのが、彼だった。

1日に1通程度、互いの住む県のこと、その日あったことなどを話した。
3ヶ月程続く彼とのやりとりは、ささくれていた私の心に癒しをくれた。
その彼が出張の帰りに会いに来てくれるというのだから、答えは決まっている。

「私もお会いしたいです」
2020年1月下旬に彼と初めて会い、居酒屋で食事をした。
帰ってから、「彼とまた会えたらいいな」と思った自分に驚いた。
誰かにまた会いたいなんて感じたのは、いつ以来だろう。

何の巡り合わせか、2月に彼が近くに出張にくることになった。
2回目の会う約束をし、また居酒屋で食事をした。
1月よりも濃くなったコロナの気配を感じつつ、「気を付けないといけませんね」と話せていたのはここまでだった。

3月に入り、予定されていた彼の遠方への出張がなくなった。
彼の勤める会社では、コロナにより原則出張はなしという方針になったとのことだった。
もう出張を理由に会うことはできない。

「一緒にいてほしい」告げた言葉の返事は「大切だからこそ考えたい」

2回目に会ったとき、彼に好きだと言った。彼も私を好いてくれていた。
ただ、彼も私も恋人とは言わなかった。
拒否されるのが怖くて言えなかったが、私は彼と恋人になりたかった。
恋人として、また会いたかった。

拒否されたとしても、正直にこの気持ちを伝えるよりほかなかった。
「末永く、一緒にいてもらえませんか」
その言葉を送ってから、彼の返事が来るまでは生きた心地がしなかった。
彼から返事が来た。

「あなたは、特別で大切な人です。ただ、年が離れている私では、先に逝って寂しい思いをさせてしまいます。子どもが生まれても、成人する頃には私はおじいちゃんです。大好きで大切だからこそ、お付き合いについては考えさせてください」

互いに好きで、また会いたい気持ちは同じだった。
明確な答えはなく、恋人にはなれないまま、3回目の会う約束をした。
「両想い」だけが私たちを表す言葉だった。

いつからか、日々のやりとりには「おはようございます」と「おやすみなさい」が加わった。そこに「ただいま帰りました」と「おかえりなさい」も加わり、寝る前に「大好きですよ」の言葉が入るようになった。

恋人になれた私たちの日常を繋いだのは「ドラマ」を見る時間だった

緊急事態宣言が解除されたとき、互いの居住地や周辺の感染者数を確認しながら、合間を縫うように会った。「両想い」のまま数回会った後、2020年10月の終わりに私たちは「恋人」になった。

なかなか会えない私たちの日常を繋ぐのは、一緒にドラマを見る時間だ。
決まった時間に放送されるテレビドラマを互いに自宅のテレビで見ながら、そのときそのとき思ったことをメッセージで送り合うのだ。

きっかけは、コロナの影響で私が昔好きだったドラマが再放送されていたことだ。
そのドラマを見ながら、「今、再放送のドラマを見ています。見たことありますか?」と彼にメッセージを送った。
彼はそのドラマを見たことがなく、すぐにテレビをつけてくれたため、一緒にドラマを見ながら、思ったことを送り合えた。その翌週も、同じようにそのドラマの続きを見た。

その次も、また次も同じようにドラマを見て、とうとうそのドラマが最終回を迎えた後、今度は別のドラマを一緒に見るようになった。
それが、私たちを繋ぐ時間になっていった。

生きている間一緒にいる相手は彼がいい。今ある幸せに目を向けていく

私と同じ年齢の友人は皆結婚し、人によっては出産もしている。
過ぎ行く時間の中、私だけが何も変われていないのではと不安に押しつぶされそうな日もある。

そういうとき私は未来を考える。
もし、彼との間に子どもが生まれ、その子が成人したとき彼がおじいちゃんでも、彼が先に逝って残される一人の時間が長くても、それでも生きている間一緒にいる相手は彼がいい。近くにいなくても、すぐに会えなくても、それでも彼がいい。

彼を好きな気持ちはなにも変わらない。私は彼といる未来を選びたい。
そこまで考えが至ると、私の嘆きは終わり、今ある幸せに目を向けて、できることを考えられるようになる。

彼との日々のやりとりや一緒にドラマを見られる時間に幸せを感じながら、私は今日も家にいる。新しいドラマの情報を探しつつ、また、彼と出かけられる日を願って。