鹿児島県と沖縄県の中間にある離島、奄美大島。そこが私のふるさと。
身バレを恐れている私がなぜ出身地を公開したか。それは、今回の募集テーマを通してどうしても訴えたいことがあったから。

どうか離島への旅行を自粛してほしい。
このシーズンは自然を満喫するために、毎年多くの観光客が訪れる。このコロナ禍ですら観光客の出入りは多く、島民は複雑な思いを抱えながら生活していることを皆さんには知ってもらいたい。
そして、離島出身である私のエピソードを交えて、ここ何ヶ月かで感じたことをこれから共有したいと思う。

毎日がつらく実家に戻りたいけど、コロナ禍では帰省の決断が難しい

今年の5月、私は精神を病んだ。このコロナ禍でのストレスが原因で、適応障害と診断される状態となったのがこの頃から。
都会で一人暮らしをしており、毎日の生活がつらくて苦しかった。1人ではどうすることもできなかったが、だからと言ってこのご時世に帰省を決断するのは難しい。感染拡大への懸念から1年半以上実家に戻っていない友達もいるし、家族とも「このコロナ禍での帰省はやめておこう」という話を昨年からしていたため、こんな事情で本当に帰省をするのかと葛藤を繰り返した。
しかし、私の心と体調はもうすでに限界寸前で、食事もまともにできなくなっていた。

我慢を繰り返した結果、今年の6月に迎えた22回目の誕生日に、私は泣きながら家族に電話をかけた。
「つらい、苦しい」という言葉が嗚咽とともに口から飛び出す。事情を知った家族は「それなら帰っておいで」と言い、その場でフライトも予約してくれた。
緊急事態宣言が明けていた時期とはいえ、全く油断できない。家族に迷惑をかけることだけにはならないようにしないと、と思い、感染対策をして地元行きの飛行機に乗った。

飛行機の席は予想以上に埋まり、そのほとんどが観光客らしき人々

東京から地元へと向かう機内。予想以上に機内の席は埋まっていた。そのほとんどが観光客らしき人々。観光客か地元の人かは雰囲気や服装などで大体判別できてしまうため、機内にいた観光客の多さに驚きを隠せなかった。
地元の空港に着き荷物を受け取ったあと、出口へ向かうと、観光客を迎えにきたレンタカー店の送迎員が多く待っていた。同じ便で見かけた人たちが続々と送迎員さんのもとへ向かってゆく。
やはり観光か、と心の中で答え合わせをしながら母の待つ駐車場へと足早に向かった。

地元では、想像以上に観光客の姿を多く目にする。
観光客でにぎわう空港や日々すれ違うレンタカー、ビーチやコンビニで見かける観光客。
地元の新聞には来島した観光客に対してのインタビューが掲載されていた。
「海でのアクティビティが楽しみ」「この時期にここへ来るのが毎年の恒例」「世界自然遺産になると知って何年か振りに来島した」という内容を読んで、複雑な気持ちになる。
地元が良いところだと知ってもらえるのはもちろん嬉しいし、地元民としては誇らしい。
だけどなぁ……と思いながら新聞を閉じ、私は帰省を我慢している友達や親戚を思い出した。そして、帰省を我慢しながら過ごしたあのつらい日々も。

言う権利はないとわかっていても、観光客の方にどうしても言いたい

私が「旅行するな」という権利はない。観光業で生計を立てている地元の方々がコロナ禍で苦労していることも重々承知してるし、さまざまな事情で県を跨いだ移動をしている方もいるだろう。それは他人からは見えない事情なので、私がどうこう言っていいことではない。
それに、私も結果的には帰省することを選んだため、「お前が言うな」という批判ももっともだ。
政府ですら「不要不急」という言葉の定義を曖昧にし、濫用している。どのような事情なら許容範囲で、もしくはそうではないかを測るのはあまりにも難しい。
だが、どうしても観光客やレンタカーを見るたびに、帰省を我慢していた自分が馬鹿みたいだと思ってしまう。

あんなに帰省を悩み、家族にも止められて、自分の心身がボロボロになるまで我慢していた一方で、こんなにも多くの観光客が島へ来ているなんて思ってもみなかった。
こんなことならボロボロになる前にさっさと帰ればよかったんじゃないか、と考えてしまうのは私の身勝手だろうか。

「帰省を我慢している」「旅行を我慢している」と言い始めたらキリがない我慢比べ。
だけど、観光客の方にどうしても言いたい。
あなたたちにとって非日常的な旅行先は、誰かにとって大切な、帰る家であることを。
感染リスクが低く、軽い気持ちで安心して旅行を楽しめる旅先かもしれない。
けれど、ここに住む人々は島外から持ち込まれる感染リスクに怯えながら生活しているし、帰省したくても自分が島内に持ち込んでしまうのではないかという不安から自粛している方も多くいる。

今、旅行を考えているのなら、もう一度考え直してもらえないだろうか

島内で感染者が出てしまうと、なぜ感染したのか、島外からの来島者との接触があったかどうか、どの辺に住んでいるのかなどといった情報がすぐに知れ渡ってしまう。
悲しいことに、これまで島内で感染者が出たときは感染者の情報が恐ろしくもすぐに広まった。それほどまでに狭いコミュニティであることを理解してほしい。
これはもちろん奄美だけに限らない問題だ。沖縄県では感染状況がより深刻で、それなのに観光客が多いことに対して「今は観光客やレンタカーを白い目で見てしまう」という島民の心境が書かれた投稿をSNSで目にする。
他の観光地でも同じようなことで複雑な思いを抱えている住民が少なからずいるだろう。

だから、今一度お願いしたい。
このご時世に旅行を考えているのなら、もう一度考え直してもらえないだろうか。
あなたが訪れようとしている旅行先は、誰かにとって大切な住んでいる場所、もしくは帰る場所であることを頭に入れてほしい。

もし、これまでに書いた内容が「あなた1人だけの意見じゃないの?」と感じたのであれば、ぜひTwitterで「#南の島を守ってくれてありがとう」というハッシュタグを調べてみてほしい。検索で出てくる投稿は昨年のものだが、1年以上経った今でも変わらずに抱き続けている島民の「想い」と「お願い」だ。

自分たちの地元を守るために自粛や我慢をしている島民がほとんど。
どうか、今計画している旅行が本当に「不要不急」ではないのかを考え直して。