生理が来ると、下腹部に鈍い痛みを覚え、身体全体が重くなる。思うように動けず煩わしい面はあるが、きちんと生理が来るのは健康な証拠だと思っている。
そしていつも振り返るのは、生理が止まってしまった中学生時代の半年間のことだ。

忘れもしない文化祭。クラスの一員になるために、ダイエットを開始

中学生の私は、体型に並々ならぬコンプレックスを持っていた。
腕も足も太いし、顔も大きい。
もともと内向的な性格に外見からくる自信の無さがあいまって、クラスメイトに話かけられても、会話に溶け込めないことに悩んでいた。

そのうち「太ってて暑苦しいよね」「根暗がうつりそう、やだやだ」と、こちらを見てわざと聞こえるように話をしてくる女子のグループが出てきた。
私が席から立ち上がり、教室を出て廊下に向かおうとすると、汚いものでも見るかのようにさっと避けられることもあった。

極めつけは、文化祭でのとある一コマ。
クラスの行事で、「かわいい子」「おもしろい子」などをランキング形式で選び、ポスターに貼りだす作業があった。
クラス全員を紹介する行事だったので、40名全ての名前が貼り出されるはずなのだが、当日貼られたポスターに私の名前はなかった。

このクラスに私は存在すらしていないことになっているの……?
手は震えだし、足にも力が入らない。ぺたんと床に膝をついた瞬間、涙が出どころを待っていたとばかりに両目から溢れ出した。

太っていて、根暗だからクラスに溶け込めないのかもしれない。そう思った私は、ダイエットして綺麗になろうと決心した。
自信が持てたら性格も明るくなるはず。
クラスの一員として認められることを信じて、さっそくダイエットを開始した。

半年間で10kg越えのダイエットに成功。一方で、生理が止まった

食事制限と運動を取り入れることに決めた私は、炭水化物は最小限、おかずは野菜多め、通学前と帰宅後に1時間ジョギング、お風呂前にスクワットを行った。
半年間がむしゃらに頑張った結果、10kg超えのダイエットに成功。

私、やればできるじゃん。物事をひとつ成し遂げたことに対する自信がついた。
一方で、ダイエットを始めてすぐに生理が止まった。しかし、当時は生理に関する知識が乏しかったため、止まったことにさほど不安を感じなかった。
むしろ煩わしいものがなくなって良かった、程度に軽く考えていたのを覚えている。

授業を終えて帰宅したある日、母に「最近、生理ナプキンが減ってない気がするけれど、使ってる?」と聞かれた。
母と同じナプキンを一緒に使っていたため、袋からいっこうに減らないナプキンの様子を不審に思ったらしい。

「最近、生理来てない」
「いつから?どういうこと?」
「半年くらい。ダイエットの影響かも」
母の顔からさっと血の気が引いたのが分かった。

「明日、病院にいくよ」
「何で?生理なくても困ってないよ?ナプキンしなくていいし楽だし」
すると母の顔が一気にゆがみ、何かをまくしたてる前の表情になった。
「生理が来ないなんて放っておけるわけないじゃない!将来、子ども産めなくなるよ?そんんな後悔、あなたにしてほしくない……」

ものすごい剣幕の後に、ごめんね、気づいてあげられなくて、と母は泣き崩れた。
後で聞くと、毎日顔を合わせているからこそ、生理が来ていないことにも、10kg痩せたことにも気づかなかったそうだ。

初めて訪れた産婦人科。優しい先生はホルモン剤を処方してくれた

正直、当時は結婚どころか子どもを産むことなんて想像もできなかったので、子どもを産めなくなることで将来本当に後悔するのか、中学生の私にはよく分からなかった。
それでも、母が謝ることはひとつもないし、悲しい思いをさせてはいけない。私は、次の日母と一緒に病院に行くことにした。

婦人科の待合室にいる患者は、妊婦や30~40代くらいの方ばかり。同年代の女性を全く見ない様子からも、場違いな感覚は否めなかった。

ひょっとして取り返しのつかないことをしてしまったのか。後悔が身体中をかけめぐり、順番を呼ばれるまで落ち着かない時間を過ごした。
婦人科の先生には、思春期真っ只中で生理が止まってしまうこと自体はさほどめずらしいことではないと言われ、ほっとした。私のように、過度なダイエットや食事制限で生理が止まり、相談しに来る学生も少なくないそうだ。

「もう、食事制限も無理な運動もやめて、穏やかに過ごしてくださいね」
先生は優しい口調で語りかけ、ホルモン剤を処方してくれた。
毎日飲み続けたら1カ月後無事生理が来て、私も母も心底安堵したのを覚えている。

がむしゃらにダイエットしていた時は、体重が目に見えて減っていく事実を糧に頑張れていたし、結果も出せてうれしかった。

しかし、毎日を過ごすのが苦しかった。満足にご飯を食べられないストレスを常に抱えていたし、走るたびに感じていた爽快感も、生理が止まってからは、いつの間にか苦しさに変わっていた。

あのままダイエットを続けていたら…母が気づいてくれたことへの感謝

そして、痩せても性格が変わったわけではないので、相変わらずクラスに馴染めなかったことが一番辛かった。

いつまで何をゴールに頑張れば良いのだろう、と思いながら続けていたので、母に止めてもらえて良かったと思う。

もしあのままダイエットを続けていたら、生理が止まるどころか一生子どもが産めない身体になっていたかもしれない。

母が気づいてくれたおかげで、今は順調に生理が来る。最近は、夫と話すなかで子どもが欲しいと思えるようにもなった。
改めて、生理は子どもを産むための大切な仕組みであることを痛感する。

毎月、重くて痛くて煩わしいことに変わりはないけれど、生理が来るたびに私は自分の身体に呼びかける。今月も、ちゃんと来てくれてほっとしたよ。