もうすぐ30歳、私が夫と結婚してから丸5年が経とうとしている。
当時の私は、「女性は結婚したら夫の名字になる」という固定観念に囚われていたので、夫婦どちらの名字にするかという相談もしなかった。婚姻届で「夫の氏」にチェックを付けるという、ほんの1秒の出来事によって、私のモヤモヤが何年も続くことになるとは、当時は夢にも思わなかったのだ。

女性は、結婚したら「名字が変わる」のが当たり前だと思っていた

今から5年前、結婚の準備を進めていた私は、名字が変わることに少しだけ違和感を覚えはじめる。身近な経験者である母に尋ねてみたところ、「はじめは慣れなかったけれど、そのうち慣れるものよ」と言われた。
先に結婚した友人も、当たり前のように名字が変わった。結婚の報告を聞いたら、「○○(夫の名字)さんになるんだね!」という会話が交わされるほど。「名字が変わることがおめでたい」ような雰囲気すら感じられたのが不思議だった。

そうか、そういうものなのか、名字を変えないという選択肢は存在しないんだな、と納得したつもりでいた。
それ以来、私が名字のことを深く考えることはなかった。結婚式に新婚旅行、新居探し……考えることは山ほどあったから、「名字の違和感」は頭の片隅に追いやられてしまったようだ。
気づいたら、役所で婚姻届を書いて、流れ作業のように銀行口座もクレジットカードの名義も変更していた。唯一変えなかった職場の名前さえ、「旧姓使用届」を出さなければならない。「なんだそれ、旧姓がペンネームみたいな扱いになっているのはどうして」と、私は納得がいかなかった。

「そのうち慣れる」って本当?いつまで経っても新しい名字に慣れない

それから何度も違和感を覚えるたびに、「そうそう、そのうち慣れるんでしょ」と、自分に言い聞かせてきた。
「そういえば、『そのうち』っていつなんだろう」と思ったときには、結婚してから4年の月日が過ぎていた。「あなたの名字が嫌」と言ってしまうようで、夫にも打ち明けづらい複雑な気持ちを抱えたまま。
職場で旧姓を使っているから慣れないのだろうか。でも、それは譲りたくなかった。唯一のアイデンティティーを、職場の「旧姓使用」に求めているのが悲しい。
周りの人たちは、「名字を変える」と簡単に言うし、当たり前のように変えているけれど、本当はもっと重たいことなのではないか、と考えている。
別に離婚したいわけではないし、「事実婚」について真剣に調べてみたこともある。だけど、今の日本では「法律婚」のほうが守られていて、生きやすいのも事実だ。

解決策はなくても、このモヤモヤを家族と話し合っていこうと決めた

夫に、このモヤモヤとした気持ちをぶつけてみた。
真剣に考えてくれたけれど、夫はなんの不便も感じていないから、共感はできない。それは仕方のないことなのだろう。結局、両方の親に意見を聞くことになったが、夫の親は「この嫁は、なにを言っているんだ」と思うのだろうか。仮に、私の願いが叶って名字を戻すと、今度は夫が名字を変えることになる。この気持ちを知っているからこそ、同じ思いをさせてしまうのも申し訳ない。
いっそのこと、結婚したら好きな名字に変えられたらいいのになあ、とぼんやり考える。残念ながら、私と同じ気持ちを抱える人たちへの根本的な解決策は存在していない。だからといって、諦めてはいけないとも思う。

もちろん、「結婚して同じ名字になることが家族の始まりで素敵だ」という考え方もあるだろうし、否定するつもりもない。
でも、名字を変えることについて、少しでも引っ掛かりを感じている人がいたら、しっかりと立ち止まって向き合ってほしいと願う。
私も、結婚してだいぶ時は経ってしまったけれど、諦めるつもりはない。諦めの悪い人だと思われるかもしれないけれど、夫とも話し合っていこうと決めたから。