あれは中学2年生のこと。私には気になる男の子がいた。彼とは中2ではじめて同じクラスになったが、存在は元々知っていた。なぜなら、父親同士が同じ会社に勤めており、知り合いだったからだ。
彼が気になったのは、性格や雰囲気が優しく穏やかで、いい人そうだったから。でも、最初に気になったきっかけは、めったにない共通点があったからだ。それは、2人とも転勤族で、以前住んでいたところが遠い九州の同じ県だったこと。
気になっていたのは、遠い九州の同じ県に住んでいた男の子
当時私達は東北に住んでおり、九州は遠い遠い存在。中学生ならなおさら、九州といってピンとくる子は少なかった。そんな中で、同じ九州の県に住んでいた子がいるなんて……。九州について話してみたかったし、勝手に親近感を抱いていた。一年生の時は、いつか話しかけるきっかけがあれば良いなとのんきに思っていたが、二年生になってクラスが一緒という絶好の機会が訪れたのである。
だが中学時代の私は極度の人見知りで、女子の友達も少なかった。男子と会話した記憶など数えるほどだ。そんな私には、彼に話しかける勇気などあるはずなく、彼の姿を目で追うだけだった。
例えば、部活で。彼と私は共に体育館を使う部活で、体育館の使用割り当てが一緒だった。
体育館を半分に区切り、前側は私の部活が、後ろ側を彼の部活が使っていたのである。そして、部長だった彼は部活を仕切り、その部の中で一番輝いていた。気づけば部活の休憩時間に彼のことを探し、目で追っていた。
また、自分の部室に向かう際、彼の部活の脇を通るのだが、前髪を整え、不自然でない笑顔で通るよういつも心がけていた。邪魔にならないよう、できるだけスピーディーに、だけど「失礼します」という礼儀は忘れず。
奥手女子だった私はアピールできず、ウブな片思いは幕を閉じた
今思うと、そんな心がけを彼が気づいていたとは思えないが、当時の私はそれで満足だった。他にも、体育で。男子の試合中、気づけば彼を目で追ってしまう。そして、「上手いよね」と女友達に同意を求める。極度の奥手女子だった私は、それで満足していた。
だが、そんな私のひそか過ぎる思いとは裏腹に、良くない噂を耳にする。一つ目は、派手目な女子が、彼のことを好きだという噂だ。そもそも彼へのアピールのスタートラインにすら立っていなかった私だが、心が少し折れてしまった。噂を聞いたときは、いっちょまえにぐるぐる、もやもやと考えてしまった。
そして、二つ目。これは決定的だった。彼が彼と同じ部活の女子と付き合っているという噂だ。その彼女とは面識がなかったため、直接聞くことはできなかった。だが、彼女とちょこちょこ話す女友達がそう言っていたため、確実だろう。
もうどうすることもできない。こうして、初恋と呼べるのかもわからない、ウブな片思いは幕を閉じたのである。
彼の転校。寄せ書きの一方的なメッセージ。思い出は大切に保存しよう
その後しばらくして、彼は転校してしまった。父親が同じ会社であるからか、くしくも、転校先は私が以前住んでいた同じ東北地方の県だった。当時携帯を持っていなかったため、LINEすることも、直接話すこともできなかった私は、クラスで用意した彼への寄せ書きに話したかったことを一方的に書いた気がする。
九州のこと、彼の引っ越し先の県のこと……。それも他の子の寄せ書きに比べるとかなりの文字数を。字面にすると重い女だが、それが当時の私の最善策であったのだ。
結局彼と話ができたのか。異性とまともに話せなかった私が、彼と直接二人きりで話すことはできなかったが、女友達を含めた3人で話すことはできた。昔住んでいた九州についての懐かしい思い出を。今も覚えているくらいだから、当時の私はとても嬉しかったに違いない。
そして、現在、たまたま彼のインスタを見つけた。そして、当時の記憶がよみがえってきた。大人になった彼の顔を見たかったが、残念ながら鍵アカだった。フォロリクを送りたいが、私のことを覚えているはずがないよな……。そう思ってそっとインスタを閉じた。
アカウントをすぐに検索できるようにユーザー名は覚えている。だけど、このウブな思い出は、更新せずに鍵をかけて、大切にアーカイブに保存しておこう。