大学生の私はこれといった特技もなく、まずは社会に揉まれてみようと思い、営業職を志望。幸いにも営業会社から早めに内定をいただき、入社することになった。

新卒の配属先は必ず新規営業の部署だったので、テレアポ三昧の日々に追われることに。今まで電話をした経験は、バイト先でお客さんからの電話に出るときくらいだったけど、「まあ、いけるだろう」という根拠のない自信があった。

できない自分が不甲斐なくて、でも「できない」ことを認めたくなくて

いざ始めてみると、思うように声が出ない。自分の声が周りに聞かれるのが恥ずかしい。私が苦戦しているうちに、同期はどんどんアポイントを取っていった。

別に誰かに指摘をされたり怒られたりするわけでもないのに、「できない」自分が不甲斐なくて、でも「できない」ことを認めたくなくて、みんなの陰に隠れるように、ひっそりとテレアポを行っていた。

ある日、同期のみんなで集まって、今後自分がどうなりたいかについて話すことに。「会社で新規事業を立ち上げて、成功させたい」「同期の中で一番早く昇格したい」と、一人一人目を輝かせながら今後のビジョンを語る。

私に順番が回ってきた。「えっと……私は……私は…………。何をしたいとか、何をやりたいとか、特に目標なんてない」と言った瞬間、涙があふれてきた。

社会人にもなってみんなの前で号泣してしまい、私の心はこわばった

みんなを困惑させてしまった後悔とともに、社会人にもなってみんなの前で号泣してしまった恥ずかしさから、今まで以上に会社の中で心がこわばるように。

いきなり鳴る電話の音が耳にこびりつき、プライベートでも「プルルルル……」という音が聞こえてくる。とはいえ弱音ばかり吐いていられないので、MTGルームを予約して、感情をなくして一人で電話をかけ続けた。

思うようにアポイントが取れなかったり、電話口で心無い言葉をかけられたりしたときには、トイレの個室でバレないように泣いた日もある。

「ここで辞めたら履歴書に傷がつくかもしれないし、この先どうなるかわからないけど、もう限界かも」と考えていると、同期全員で集まってみんなで褒め合う会が設けられた。

そこでは否定は禁止。「○○のこういうところが素敵だよね」「尊敬するし、私も真似したい」などの言葉が行き交った。自己肯定感が最底辺まで落ちていた私にも、同期は笑顔で褒め続けてくれたのだ。

それだけではない。「電話をみんなで一斉にかけて、アポイントを取れた人にみんなでお菓子を買ってあげよう」というように、テレアポをゲーム化することに。同時に電話をすると周りの声もさほど気にならず、みんなより長く電話が続くと嬉しくなるし、逆に長く続いている人を見ると素直に応援できた。

「できない」ことを認められなかった私が、今では笑って話せるように

テレアポが「怖い」から「楽しい」へ変わった。きっと、私のことを誰も見ていなければ、私はすぐに会社を辞めていたと思う。無関心ほど怖いものはない。同期が私を海底から引き上げてくれたのだ。

現在、私は営業職から離れ、マーケティングの仕事をしている。同じチームには新規営業を行っている女性が一人。電話に抵抗があるみたいだ。まるで昔の私を見ているみたい。私はその子に電話を強制はしない。電話以外でアポイントを効率的に取れる方法を一緒に探している。

「できない」ことを認められなかった私が、今では「私ね、昔テレアポがすごく苦手だったんだ」と笑って話せるようになった。