逃した夏。それでも私は、彼らと同じように「物語」の主役でありたい

今年の夏は、初めて自分の意思でライブに行かないことを選んだ夏だった。
毎年行っていた大好きなアイドルのライブだった。チケットだって手に入れていたし、ライブ用の服も用意していた。髪型もメイクもその日に向けて練習していた。
2年ぶりの有観客ライブだった。2年前より大きな会場で、走り回る彼らをみられるチャンスだった。
だけど、私は行かなかった。
高校時代からの夢だったアメリカへの留学を控えていたから。
留学のためにライブを諦めることを決めるまでに、相当な時間を要した。大学の友人、オタクの友達、母親……いろいろな人に相談した。
決め手となったのは、母の「ライブと留学どっちが大事なの?」という言葉だった。
確かに。ライブに行ったせいで、コロナになって留学の出発が遅れましたなんてことになったら、笑い話では済まされない。
何より、コロナ禍での留学に際して、ワクチン接種をできるだけ早く受けられるように尽力してくださった大学職員の方の顔が浮かんだ。
「行くべきじゃない」
そのとき、ぼんやりと思った。
でも、行かないと決めてからだって葛藤はあった。だって、彼らからしてみれば「一度しかない今年の夏」なんだもん。
夏のライブって特別だ。同じ夏なんて一度もない。今年の彼らと来年の彼らは明らかに違うし、今年のパフォーマンスと全く同じパフォーマンスが来年も見られるわけじゃない。逃した夏の大きさは格別だ。
それでも私は、留学を選んだ。私が生きてるのは私の人生であって、彼らのために捧げるものじゃないから。これから何度だって逃した2021年の夏を後悔するだろう。今年見られなかったパフォーマンスについて話が出るたびに、やるせない気持ちになると思う。
その悔しい気持ちを昇華させるために、アメリカで頑張ろうって決めたんだ。
アメリカでたくさん友達を作って、ここでしかできない経験をして、今しか感じられないことをたくさん感じて、一回り大きくなった自分で、彼らに会いたい。
今はまだ、ぼんやりとしている「なりたい自分像」をもっとはっきりさせて、それを叶えるためのプロセスを着実に歩めるような自分になって彼らに会うんだ。
彼らが「伝説になる」という夢を掲げて、自分が主役の人生を生きてるように、私だって私が主人公の物語を生きる。私自身の物語が光輝くものになるように、今を生きたい。
だから、あなたたちは、脇役として華を添えてね。
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