「夜になると急に感情が爆発するんだ」
「夜に手紙を書くと自分じゃないみたいな文章になっているから、朝起きて見ると恥ずかしいの」
私はよく周りの友達からこんなことを聞いていた。
感情が爆発?
自分じゃない文章?
夜だって自分は自分だ。
感情のコントロールくらい自分でできるはずだ。
周りを否定するかのように、"夜"を否定するかのように今までの私は過ごしていた。
幸せだった日々は欲で罪悪感に変わる。全てを終わらせようと決めた
そんなある日、社会人2年目の春、私は1つ上の先輩に恋をしていた。
いつも元気で明るくて、ふざけておちゃらけているように見えるけれど、人一倍思いやりがあって責任感があるそんな先輩。
1年目の春に出会って、1年掛けて自分でも知らぬ間に徐々に恋心を抱いていた。
でも、先輩には同じ会社に彼女がいたのを知っていた。
それもそのはず、彼女ができたという何気ない報告を機に自分の気持ちに気付いたのだった。
恥ずかしいことにそれまでは気付かず、のこのこと過ごしていた私は、鈍感な小学生の、初恋のような気分だった。
最初はとても幸せだった。
久々の恋心、毎日のたわいもないLINE、年上の魅力的な先輩。
一つ一つの言葉が幸せに溢れ、私の心を満たしていた。
しかしそれは自分の欲が出てきた瞬間、罪悪感へと変わってしまった。
1人の「楽しい」「嬉しい」「幸せ」が、1人の「悲しい」「寂しい」「不幸」に繋がる。
それを知ったとき私は全てを終わらせようと思った。
私さえ終わらせることができればそれでいいんだと思った。
きっとこれは夜のせい。みんなが言っていた夜の感情はこれかも…
そう感じたのは、まさに暑さが残る9月の夜。
最寄りの駅から出て家までの帰路。
携帯片手に暑さでじんわりと汗ばむ手のひらの中で書いた文字。
「大好きでした。自分はそんなに強くなかったみたいです」
画面を暗くする。
はぁ……と一つ溜息をつく。
これがみんなが言っていた夜の感情?
勢い、情熱、制御が利かないこの感覚。
昼間なら絶対に送れないメッセージ。
そう思った瞬間、感情が爆発した。
玄関に着いて声を上げて泣いた。
1年の思いは呆気なく終わってしまうのか。
人に感情のままに思いを伝えたのも、恋愛で感情のままに泣いたのも、これが初めてだった。
泣き終えた後、ふと思った。
きっとこれは夜のせい。
思い出すと恥ずかしくなる夜でも、あの夜があったから今の私がいる
あれから数ヶ月、私の隣には先輩がいた。
そしてそれから2年が経った今も、先輩の隣には私がいる。
あの夜を思い出すと恥ずかしくもなるし、どうしてあんなメッセージを送ったのか両手で顔を隠したくなる。
でも一つだけ言えるのは、後悔はしていないということ。
あの夜があったから今の私がいる。
やっぱり夜の自分は自分じゃないかもと、半分だけ信じてみようか。
ただ一つ、あのメッセージに秘密がある。
「大好きでした」
過去形で綴られた言葉。
これはあのときの私のほんの少しの見栄で綴った言葉。
これだけは正直な自分がちゃんとそこにいたんだ。