かの文豪夏目漱石は「I love you」を「月が綺麗ですね」と和訳したという。
SNSでよく見かける有名な逸話の1つである。
真偽のほどは別として、小さな秘密を含んだような、詞的で美しい表現だ。
わたしの友人の一人は「おやすみ」。
また別の友人は「幸せでいてね」と訳すと言っていた。

わたしの「I love you」は「タイタニック一緒に観ない?」。

いつか自分が究極の恋愛をしたとき、一緒に観ることにした

10年前くらいだろうか。
世界中に強烈なファンがいる有名な恋愛映画「タイタニック」に強烈な憧れを抱いた。
きっかけはテレビのものまね歌番組だったと思う。
どこかで聞いたことがあるフレーズをものまねした歌声が画面から聞こえてきた。
短い曲紹介には一言、「だれもが知る映画『タイタニック』の主題歌」といったニュアンスのことが書かれていた。
一緒に観ていた両親に観たことはあるか、どんなストーリーなのかと尋ねた。

豪華客船が沈んで主人公かその想い人が亡くなる、という結末こそ教えてもらったものの、それ以外のストーリーは全く知らない。
両親の語り口調から、愛し合った主人公2人の絆や深い愛情が描かれていることだけはそのとき知った。
幼いわたしはタイタニックを究極の恋愛映画だ、と信じ込み、いつか自分が究極の恋愛をしたときに、それこそ究極に愛した相手と観ることを楽しみにすることにしたのだ。

タイタニックを観たいと思うくらい愛するひとを見つけられたら

ミーハーで軽率な理由だが、夢を持ったその日から約10年経った現在まで律儀にそのルールを守っていた。
これまで付き合った恋人は現在の彼氏を含めて3人。
付き合ってある程度時間が経ってから「いつか本当に『この人を愛してる』って思ったときに一緒にタイタニックを観るのが夢なんだよね」と話すのが定例だった。
「That’s so cheesy.(あるあるじゃん)」と言ってきたひとも、一言「へぇ」と返してきたひともいた。
別れる瞬間まで、わたしが言ったことを覚えてくれていたのだろうか。
未だにわたしはなぜ豪華客船が沈んだのかを知らない。

いつか観賞するときに、映画そのものより、タイタニックを観たいと思うくらい愛するひとを見つけたことに胸が熱くなるだろう。
これまで視聴の機会がないわけではなかったが、「なんとなくもう少し守っておきたいルール」として扱ってきて良かったと思う。

わたしの「I love you」がそろそろ言えるかな

当然ながら、世の中には傑作とうたわれる恋愛映画がタイタニック以外にもある。
だけど、10年の月日を得たことによりタイタニックという映画が意味を持つようになったのだ。
自分が心から愛するひとと一緒に観るならタイタニック、という考えが時間をかけてわたしに浸透したのである。
そうしてわたしの「I love you」ができあがった。

今付き合っている彼は心根がやさしく、愛情深い。
わたしの陳腐な憧れを話したときも、「いいじゃん! 楽しみにしてるね」と言ってくれた。

あなたになら、もう言ってしまってもいいかもな。
「ねぇ、タイタニック一緒に観ない?」