私の恋人はみんなからも好かれるような、相性もバッチリの最高な人、“だった”。
顔が良いってわけではないけれど、優しくて、頭がよくて、面白くて、私のわがままも笑いながら聞いてくれる、私の挑戦も力強く背中を押してくれる、包容力のある素敵な人だった。

ともすれば完璧な人のように聞こえるが、それくらい良い人だったのは間違いない。
ただひとつ不満があるとすれば、優しすぎるのか優柔不断なのか意思がはっきりしないことが多かったこと。例えば仲良しから始まった私達はいつから付き合い始めたのか、記念日というものが存在しなかったりした。

将来の約束もないけど、素敵な彼だから頑張ろうと意気込んだ4月

そんな素敵な恋人を失ったのは、今年になってから。もうコロナもみんな慣れっこになって、日本でワクチンが始まった頃だ。
たぶん、私達の別れはコロナのせい、と言ってはいけないのだと思う。
別れの原因は、私の弱さだったから。
でも、コロナのせいでもあったと言わせて欲しい。

予兆は2020年の4月から始まっていた。
ちょうどコロナの第1波が始まって、毎日東京の新規発生者が速報され、日本中でstay homeが叫ばれていた頃。学生の頃から一緒だった私達だが、就職して地方と大阪の遠距離恋愛になったのだ。

元々遠距離をすること自体とてつもなく嫌だった。だから就職先を同じ地域で、と考えてはいたが力及ばず、遠距離になることはすでに半年くらい前に決まっていた。とはいえ、大阪には新幹線で1時間くらいで出れる距離。さみしければすぐにでれる距離だし、1カ月に1度くらい会えれば平気だと思っていた。
しかし、このコロナで状況は一変した。大坂との遠距離恋愛は、実際の距離よりもはるかに遠いものになってしまった。

職場のこともあり、責任ある社会人の立場ではおおっぴらに大阪に出ることは難しい。でもインターネットの普及した、テレビ電話だってあるこの現代。確固たる将来の約束も何もないが、素敵な彼だ、がんばろう、そう思いながら4月がスタートした。

物足りなさを感じ、彼で満たされていた部分を他で埋めるように

さみしくてさみしくてたまらなかった。
4月、新しい環境、新しい人、初めての仕事、覚えることもたくさんあって気の張る季節に、帰って何気ないことを話して笑う相手がいないのは、思ったよりもずっと空しいものだった。

ずっとラインはするものの、私にとっては圧倒的に物足りなかった。テレビ電話は、お互いの忙しさが合わなかったりして、2週間に1度くらい、会うのは世の中の状況をみながら2ヶ月に1度くらい。声を聴きたい、温もりを感じたい、そこに彼がいたらどんなに心強いか。私の心には常に寂しさがあった。

そうしていく内に、今ままで彼に占められて満たされていた部分を段々他で埋めるようになった。筋トレを始めてみたり、職場の人と仲良くしてみたり。学生時代の友達と電話してみたり、身近な人にときめいてみたり。

彼はそんな中でも良くしてくれていた。私の中ではさみしくて口に出せない不満が募っていたが、彼は彼なりの頻度でちゃんと電話もしてくれるし、会おうと言ってくれる。
でも次第に私は身の周りの手近な楽しさに心を占められるようになり、彼との実態も中身もない文字だけの会話をすることや、コロナの状況をかいくぐってまで彼に会うのがおっくうになった。

私が、彼をぞんざいに扱うようになってしまった。
そして切り出してしまった。別れを。

いつか彼のように優秀になって、同じ世界で羽ばたくために努力する

彼は大人だった。私が別れを切り出した時、一度目は感情的なものだろうと軽く受け流してくれた。でももやもやが抑えきれずまた別の機会に改めて言った時、それなら仕方ない、お互い頑張ろう、というような感じで穏やかにお別れした。

約束はなかったけれど、うっすらと見えていた彼との未来を失った今、私はどれだけ彼に頼っていたかを思い知らされた。精神的にも支えてくれていたし、どんな挑戦も応援して助けてくれていた。

同じ目標に向かって頑張っていた学生時代、もしかしたら私がいなければぐいぐいと進めていたであろうエリートコースを、私がついていけないからという理由で彼にぐずついて、彼の足かせになっていたのではなかろうかとさえ思われる。
私も一緒に行きたかった道なのに、私が努力するのではなく、そばにいてもらっていたことで私は安心を得ていた。最悪だ。

遠距離ができなかったせいだろうか、コロナのせいだろうか。彼のことが大好きだったはずなのに。もしかしたら私は、離れようとする私を引き留めてもらうことでさらに安心を得たかったのかもしれない。彼を失って残ったのは、何もない自分だった。
なりたかった自分に目を向けず、ヘラヘラと楽な方へ流れていく自分。

このままではだめだ、彼に頼り切って努力を忘れた自分ではだめだ、とはたと気づいた。
自分には無理と決めつけて諦めたことが沢山あった。気持ちの落ち着いた今となって、ようやく粛々と自分磨きに励んでいる。いつか彼のように優秀になって、彼と同じ世界線ではばたきたいと願いながら。