現実逃避で始めたチャットで出会った人と過ごしたあの夜がくれたもの

2021/09/16

失敗で初めて感じる大きな恐怖と挫折。それでも本番はやってくる

とあるミスがキッカケだった。
私はその時舞台音響をしていて、オープニングシーンの音源を流した後、全てのシーンをぶっ飛ばして最後のシーンの音源を流してしまった。
オープニングで掴んだ客の心は、謎の音と謎の台詞によって盛り上がりがリセットされる。
私は音源をフェードアウト、2シーン目の音源を確かに流したが、正直ほぼ記憶がない。
覚えている脳内はこんな感じだ。

夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢夢
消えたい消えたい消えたい消えたい消えたい
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ
死にたい死にたい死にたい死にたい

終演後、責められる事はほとんどなかった。
あの後どうにかなったんだし、大丈夫大丈夫と、優しく声を掛けてくれる人達ばかりで、これからこの経験を活かして頑張る、私はそれで良かったんだと思う。

無理だった。
そんな風には到底思えなかった。
私の失敗で舞台を台無しにしてしまった。
初めての、大きな大きな恐怖、挫折。
そんな事で？と思うかもしれないが、私にとってこの失敗は、とてつもないトラウマ事件だった。
それでも本番はやって来て、私は震える手で音響卓を触る。

元カレの人数だけが増えていく。「処女」「重い」の呪いが解けるまで

現実を逃避のために始めたチャット。顔も知らない相手と会うことに

またあの時のような事が起こるんじゃないか。
起こったらどうしよう。
リカバリーなんてどうでも良い。
起きる事が嫌だ………。

本番を迎えるたび、心が擦り減った。
注意力から体も心もガチガチで、力が入り過ぎていて、小さなミスも許せない。
夜は夢を見るから寝れない日々続き、あと何日耐えれば抜け出せるのだろうと苦しんでいた。

そうだ、現実逃避をしよう。
それが私の安易な脳が出した答えだった。

無料チャットアプリに登録して、顔も声も知らない相手に、思わせぶりな発言をしたり、ひとりエッチを誘発させるような発言を真顔で打ち込む。
その光景や内容自体が滑稽で、私はクセになり、そのまま眠れた。
そんなチャットで唯一映画の話ばかりする珍しい人がいた。
急に最新作のホラー映画を観に行きたいと言われ、まぁいっかと思い、会う事になった。
今思えば、怪しいチャットで知り合った人に会いに行く事に対して、何の違和感もなかったのが不思議だ。

緊張は解けファミレスへ。先輩の愚痴を話す彼に安心を覚えた

映画館で待ち合わせ、レイトショーで観た。
彼は華奢で、大学生みたいな雰囲気の青年で24歳、同い年だった。
ホラー映画はさほど怖くなく、映画館を出て近くのファミレスで話す頃には完全に緊張は解れていた。

新卒入社2年目の彼が、酷く幼く感じたの強く覚えている。
口を開けばほとんど先輩の愚痴だったけど、私はそれにものすごく安心した。
あぁ、24歳なんてこんなもんだよな。
だけど現実、私は20歳から働いていたので入社4年目だった。
甘えてはいられない、でも今くらいは楽になりたい。

先輩が退職すると聞かされた。
その人は本当にしっかりしていて、その後釜が、信じられないポンコツの私。
勝手に感じたその重圧と、自分の失敗は全てを台無しにする可能性があるという事実によって、崖のギリギリに追い詰められ、落ちない様にずっと踏ん張っているような毎日。
はたまた上司が飲みに誘って来る、仕事行く為に起きるのほんとだるい、という毎日。
その話に癒されている私。
私ヤバいな、と初めて自覚したのと、ちょっと泣きそうだった。