あの日は、どんな風が吹いていただろうか。
そんな事すら覚えていないけれど、それでいい。あの夜があったから、今の私がいる。

いいねがもらえて自己肯定感があがるマッチングアプリにハマった

ピコンとLINEの通知が鳴り、スマホを見やる。
「彼氏できた!!!!」
喜んでいるのが文面から伝わってくる。私もつられて口角が上がる。
「おめでとー!!詳しい話は会った時に聞かせて笑」
友達にラインを返し、そのままベッドにダイブする。
また、置いていかれた。なんで私には彼氏のかの字もないんだろう。はあ、とため息をつく。

その時ふと、マッチングアプリの存在を思い出した。彼氏報告してきた友達もユーザーだと言っていた。
私も使ってみようかな。でも使ってるって知られたら恥ずかしいよなぁ。
うーーん、と考えた末、未知のモノへの興味が勝り、私はアプリを入れる事にした。

そこから事はトントンと進んだ。たくさんのいいねが貰えて、自己肯定感が上がる上がる。
メッセージを重ねていいなと思った人とも会ってみた。中にはドン引きする人もいたけれど、普通の人だっている。多くの人が直接会って、かわいいと言ってくれる。
やっぱり自己肯定感が上がる上がる。そりゃもう鰻登りですわ。

お気づきだとは思いますが、今まで男性との接点がなく、可愛いと言われ慣れていなかった私。まんまとマッチングアプリにハマりました。だって女の子だし!かわいいって言われたら嬉しいし!

知り合った男性の家に行くことに。いざとなれば断ればいいと思った

そんなある日。アプリでやりとりをしていた男性と家が近いことを知り、仕事帰りに会う事になった。
最寄りの駅のコンビニで待ち合わせ。
あ、思い出した。その日は冷たい風の吹く、冬の日だった。

車の追突を防ぐ、銀色のホチキスの芯のような形状のポールに腰掛けて待っていると、男性がやってきた。プロフィールで見ていた通りイケメンだった。あたりじゃん!私は心の中で思った。
そのままコンビニの前であったかい飲み物を片手に少しだべった。
すると彼は、「寒くない?車入ろうよ」と一言。

実際、めちゃくちゃ寒かったので、その申し出をありがたく受け入れる事にした。
車に入って早々、うちでいい?と彼。
私はえ?家?それってお持ち帰りのパターンじゃと思いつつ、まあ、いっか。行為する流れになったら断れば良いし、と思っていた。
これがとんでもなく甘い考えだったと後に私は知る。

結論から言うと、致した。
私は数回しか経験がなく、夜を迎えるのは4回目だった。
2回開催された運動会のうち、1回はコンドームを付けず終えた。もちろん外には出してたけど、そういう問題じゃねぇんだよ。だけど行為中、聞かれた時にキッパリと言えなかった私が悪い。いや、そんなタイミングで聞いてくんなよ。
とまあ、頭を巡る思考。こちらは一度置いといて。

「また会おうよ」の言葉に笑顔で手を振り返す。虚しさを感じた夜

その後すぐに私はムクリと起き上がり、衣服を身に付けていく。もう1回したいと言ってくる男に今度こそ、いやしない、とハッキリと告げた。
夜はまだ深い。
そのまま私は立ち上がり、明日も仕事だからと帰ることを伝える。彼は親切に車で、待ち合わせたコンビニまで送ってくれた。車中、私はほぼ無言だったと思う。考え事をしていたから。
また会おうよ、という男に笑顔で手を振りかえして帰路を急ぐ。ただ早く、自分の家に帰りたかった。
手早くお風呂に入りベッドへダイブ。

虚しかった。
好きでもない人とする行為は、ただただ虚しかった。
可愛いと言ってくれた。その延長のはずなのにこんなにも満たされないとは知らなかった。
はあああ、深くため息をついても心の穴は埋まらない。
後悔していた。
流されたこと?いや違う、他人と自分を比較して、彼氏がいる人は幸せで、いない私は不幸せと決めつけていた自分自身を。

アプリやめよ。
ぽつりと呟いた言葉は闇に消えていく。私の心に決意を残して。