以前、中学の同級生のA男にストーキングされていた。
A男と私は中2で同じクラスになった。出席番号順では席が遠かったものの、何度かあった席替えで毎回、必ず隣になった。
1年のうちのほとんどを隣の席で過ごした私とA男は、仲を深めるのにそう時間はかからず、気がつけば私はすっかりA男に恋心を向けていた。A男も満更ではなかったように思う。
けれど、紆余曲折あって付き合うには至らなかった。
気まずい関係のまま、中学校を卒業した。

「A男と付き合ってる?」。知り合いからの質問に、身に覚えがない

それから数年後。最初は「最近よく会うな」と思うだけだった。
私が学校を終えて駅の改札を出ると、A男は大抵私の前を歩いていた。何も知らない私は「おーい」なんて呑気に声をかけていた気がする。
そのまま一緒に帰路を辿り、自宅の前まで送ってもらうのが、当時は日課にすらなっていた。
次はSNSに上げていた画像だった。
夜、中学時代の友人とボウリングに出かけた時だった。空いているボウリング場で、偶然にも久方ぶりに会う知り合いがいた。
「今、A男と付き合ってるんだっけ?」
身に覚えがなかった。
「はい?」
と尋ねると、知り合いがA男と会った際、私の写真がA男のスマホの待受画像になっていたそうだ。
日頃そういった話題を妙に嫌う男だったので、知り合いは特に言及しなかったらしいが、「待受画像に設定するぐらいの子なら彼女なんだろう」と推測したとのことだった。
私が「私の写った画像」をA男に送ったことなど、ただの一度もない。きっと、SNSに上がっていた画像を勝手に使っていたのだと思う。
私は、全てのSNSの更新を辞めた。

同窓会では私の周りを常にうろつき、帰宅確認の連絡が毎日来るように

その後も色々とあった。
同窓会で私の周りを常にうろうろとして、事あるごとに会から連れ出されそうにもなった。
この頃には、帰宅確認のメッセージが毎日のように来るようになった。
……返事は返さないけれど。
程なくしてバイト帰りの夜。彼氏の家に向かう途中にA男から着信があった。
普段なら警戒していた筈が、気まぐれに通話ボタンを押した。
「……もしもし」
「……今日は出るんだな。あんだけシカトしてたくせに」
「シカト、してたつもりは……ない、けど」
「……今日、こっち帰ってくんの」
「うーん。今日は帰らないかな」
「……彼氏?」
「そう、彼氏」
「帰ってこいよ」
「は? なんで」
「……なんでも。今日、会いたい」
「だからなんで? 理由は? それに彼氏の家目の前にして、急に帰ったらおかしいでしょ」
「今日、どうしても会いたい。終電でいいから、帰ってこいよ」
「えー……」
「俺と彼氏、どっちが大切なの」

すぐに通話を終了し、電源を落としてから合鍵で部屋へと入る。
いつもの穏やかな笑顔を浮かべた何も知らない彼氏が、玄関まで小走りでやってきて「おかえり」と私を抱きしめた。
全てが酷く暖かく感じた。
この日を境に、帰宅時間を確認する定期連絡が来なくなった。他の同級生の話によると、「A男は家の都合で九州に引っ越した」らしい。

A男の段々とエスカレートしてくる内容に、少しの恐怖と安堵

それから10年。
私はあの当時付き合っていた彼氏と結婚して、2人の子宝にも恵まれた。
A男からの定期連絡はいまだ続いている。
「元気?」
「なにかあったら、まず俺に連絡して」
「こっちに来て、一緒に住もう。俺はいつまででも、待ってるから」
返事は返さない。
それでもA男の中で段々とエスカレートしてくる内容に、少しの恐怖と、少しの安堵を感じる。

聞きたいことは沢山ある。
席替えで連続して隣になったのは、A男が仕組んだことだったのか。
なぜ私の画像を待ち受けにしていたのか。
あの夜に、どうしてそんなに会いたかったのか。
真意はわからない。
でもA男の言う通りに会っていたら。会って、きちんと決着をつけていたのなら。私もA男も、こんな思いはしなかったのかもしれない。
めっきり頻度が減った、けれど必ず来る返事を返せない連絡を、私はどこかで心待ちにしている。