あの夜があったから、わたしは今、旦那と幸せな日々を送っている。
今から3年前、東京でひとり暮らし。
出会いのでの字もなかったわたしは某配信サイトで素敵な声の主と知り合った。
同い年のごく普通の一般人。
声がいいなあ、そう思って何度も配信に訪れるうちに親しくなり、直接会うようになった。
少し遠距離だったけど、少しずつ両思いの予感。
半年かけてアプローチをして、なんとか告白してもらった。
あの時のいろんな苦労は今も忘れない。
それだけ好きで、好きになって欲しくて、付き合いたくて頑張った。
甘酸っぱいったら仕方ない。
失恋した23時過ぎ、1人が無性に情けなくて、古くからの友人に電話
でも、それでも終わりは来た。
遠距離が心の距離も遠ざけた。
わたしがもっと会いに行けばよかったのかな、わたしがもっと寄り添ってあげれば……なんて思ったけど、電話越しに泣きながらもう付き合えないなんて言われたら、わたしも駄々をこねるわけにはいかなかった。
やっぱりわたしに恋愛は向いてない。
人を傷つけて終わり。
うわ~、はじめての失恋じゃん。
なんて他人事のように思いながら電話を切ったら、時間は23時過ぎ。
シンと静まり返った部屋の中、1人でいるのが無性に情けなくて、ふと、古くからの友人に電話をしたくなった。
たまにLINEで生存確認のやりとりをするくらいで、電話はそんなにしなかったけど、今回は勢いでかけちゃった。
まだ起きてるかな~なんて思いながら。
友人は案外すぐに出てくれて、もう寝るところだよと言いながらも話を聞いてくれた。
彼氏と別れた事実を話せれば良かったはずだったのだが、気付けば号泣しながら元彼の愚痴を吐き出していた。
もうそれはたくさん愚痴が出た。
こんなにわたしは元彼が気に食わなかったのかと言わんばかりに。自分でも驚いた。驚いたと同時に涙も出し切り、それはそれはスッキリとした気分になったのを今でも覚えている。
誕生日に電話してなんかごめん。でも心は嘘のようにスッキリした
友人は相槌を打つくらいで、言葉少なに相手をしてくれていたが、最後に一言
「ところでうち、今日誕生日なんだよね」
そう言った。
時計を見れば愚痴を垂れている間にもう日付は変わっており、友人の誕生日。
いや、そんなつもりはなかったよ。
いや、友人の誕生日のことは覚えていたけども。
いや、ねえ、なんかごめん。
ほんでおめでとう。
今度酒をご馳走しますから……。
なんて言って電話を切った。
変な日。
でも、おかげでさっき失恋したことが嘘のように心はスッキリしていて、明日からまた頑張ろうとひとりごとを呟いて、良い眠りについた。
大層スッキリし、恋愛を少し学んだわたしはそれから数ヶ月後に今の旦那と出会い、とんとん拍子に結婚まで進んでいった。
懐の広い友人に彼氏ができたと報告すると、早すぎないかと少々引かれてしまったが、結婚式でも楽しそうに参加してくれていたので良しとする。
あの夜がなければ、わたしは失恋を引きずりまわし、今も恋愛に事欠いていただろうし、友人が電話に出なければ寝れない夜を過ごしていただろうし。
あの夜があったから、わたしはこうしてハッピーな生活を送れていると、たまに思い出しては少し酸っぱい気持ちになるのだ。