2021年6月23日、東京の上野動物園で双子のパンダが誕生した。
同園で初めて生まれた双子のパンダに日本中が沸いたちょうどその頃、私は人生の岐路に立たされていた。
私はパンダ誕生のニュースを見ながら泣いていた。決して感動の涙ではない。
「死にたい」
人生で初めて明確に感じ、その言葉を口にした瞬間だった。
ネットで知り合った3歳下のワンコ系彼氏。本気で結婚を考えていた
私には3歳下の24歳の彼氏がいた。
ネットで知り合い、結婚を前提に付き合って欲しいと言われ、2月から付き合い始めたばかりだった。
東京と福岡の遠距離に加え、年下の男子との初めての交際。ワクワクと不安でいっぱいの4ヶ月だった。
彼はいわゆるワンコ系彼氏ってやつで、「好き」「可愛い」「かまって」と恥ずかしげもなく甘えてくれる可愛い人だった。
私が寂しい時には優しく話を聞いてくれ、ネガティブな話題も笑いに変えてくれる。
本気で同棲や結婚を考えていたし、親が反対しようとも縁を切ってでも福岡に行ってやると本気で考えていた。
そんな彼と不穏な雰囲気になり始めたのは6月の中旬頃。
家庭の問題やお金の問題でお得意のネガティブに陥っていた私は、彼に対してひどい態度を取ってしまった。
加えて、彼は彼で転職したばかり。疲れも溜まっていたのだと思う。
報じられる奇跡のニュースに、自分の生きる意味が分からなくなった
「君のことがストレスになってるかもしれない」
彼は今まで私に不満をぶつけた事はなかった。本音を隠す人だった。嫌なことがあっても黙るばかりで、真面目な話し合いは苦手みたいだった。
そんな彼が初めて私にはっきりと負の感情をぶつけてきた。
悲しくて腹が立って、どうしようもなく情けなくなった。
複雑な感情が一気に押し寄せてきて、不安と恐怖でいっぱいになって、部屋で1人過ごすのが辛くて。
すがるような気持ちで外に出て電車を待っている時、スマホで見ていたニュース番組で報じられたのが、パンダ誕生のニュースだった。
嬉しそうな飼育員のインタビュー、興奮気味に伝えるアナウンサーの声、映し出される誕生のその瞬間。
こんな奇跡を目の当たりにした時、私は自分の生きる意味が分からなくなってしまった。
理由は分からない。ただ病んでいたといえばそれまでだし、大袈裟と言われても仕方ない。
あの時の感情は説明が出来ない。
ただ画面を見つめながら、止めどなく流れてくる涙に困惑していた。
たった4ヶ月の儚い恋愛だった。彼との恋愛を振り返るのはやめよう
彼に別れを告げられたのは7月1日の事だ。
正直予想はしていた。覚悟もしていた。
それでもやっぱり悲しくて、年甲斐もなく泣きながら「別れたくない」と駄々をこねた。
たった4ヶ月、付き合ってからは一度しか顔を合わせていない。美談に出来るほどの思い出もない。丸一日泣いたらもう泣く材料もなくなるくらいの、儚い恋愛だった。
あれから一週間、今日私は失恋を慰めてくれるという女友達と焼肉に行った帰りの電車でこの文章を書いている。
隣の席のカップルが、電車内で流れるニュースを見ながら話している。
あの時私に絶望を与えた双子のパンダの性別が分かったらしい。
「双子のパンダ、雄と雌だって!なんか芋虫みたいで気持ち悪いねぇ」
その言葉に、なぜか少しだけ笑えた。
と同時に、もう彼との恋愛を振り返るのはやめようと決めた。
もう少しだけ、頑張って生きてみよう。
ためらわずに走ってみよう。
この電車を降りたら、スタートだ。