ふと電車に揺られ、たどり着く先は大体ここ。ここで私はいつも生ビールを頼む。私は普段、ビールを飲まないのに、ここで飲むビールは格別なのだ。

私は生ビールと、彼の好きだった豚の角煮を頼んでは周りを見渡して帰る。一杯飲む間だけ、彼はいないかなって探してもいい。自分のルールを作っていつもの席に座る。

捜しても次はないはずなのに、今、とても幸せなはずなのに、私は必ずここに寄ってしまう。それはきっと彼のせい。

高校の同窓会の2次会で、私のことを好きだった男が寄ってきた

その彼とは去年この場所で出会った。私は当時、早く大人の女性になりたかった。周りの友達は初体験がどうだったとか、温泉旅行がどうだったとか、私には到底話せないことばかりで盛り上がっていた。

高校の同窓会だってそう。お酒が入ればいつだって盛り上がるのはこの話。「ももちゃんはそういうんじゃないんだから、汚さないで」って誰かがふと言う。私は無理に笑顔を作りながら、悔しさを噛み締める。2次会のカラオケで、友達だった男女が絡みつく。ああ、なかなか地獄だな。

そんな時、高校の時私を好きだった男が寄ってきた。彼は顔も良く、クラスのムードメーカーでチャラチャラしたイメージを持っている。一緒にクリープハイプの歌を歌ったり、お酒を飲んだりした。

だけど、彼は指一本触れてこない。私はいてもたってもいられなくなって、千鳥足で抜け出し、赤い提灯に吸い寄せられるように店に入った。「おじさん、梅酒とぼんじり」そう言うと隣から勢いよく近づいて、「いや、おじさん、この子には生ビールと豚の角煮。それが一番うまい」そう言って私を見てきた。

「あの、私ビール飲めなくて……」と言ったが、私の話は全く聞いてない。お店のおじさんが「お姉さんはどうして今日ここに?」と聞いてきた。出されたビールが苦くて、私は渋い顔をして彼を見た。

彼は持っていたビールを飲み干して私にこう言う。「今日俺はお姉さんと帰る。そのつもりだけど大丈夫?」。

初体験の瞬間を待っていたのに、私の頭の中はいろんな思いが駆け回る

私はこの状況をずっと待っていた。それなのに、すがっていいのかな、私の初はこれでいいのかな、今になって頭を駆け巡る。かける言葉が見つからなくて、角煮を食べてビールを一気に飲み干す。

日付も回り、気づいたら私は駒場東大前駅。ちょっと歩いたところのコンビニでいらないはずのお酒を買い、手を繋いで彼の家に行く。ミニマリストで整った家。

そこで私は彼とお酒を飲みながらベットに座り、スマブラをやる。「弱っ、俺の勝ち」。私はムッとして彼を睨む。人恋しい冬の季節、私は彼の唇に吸い付いた。彼の手が私の肩に、そして腰に胸に太ももに。お酒で熱った彼の体がまとわりつく。

なんだろう、この快感は。私の体を求めてくれる彼の顔がたまらない。彼のものが私の中に入る時、私はこれまでの快感が激痛に変わる。静かな空間に響く私のうめき声。

すると彼は慌てて「もしかして、こういうの初なの?」と言った。また私は大人になりきれなかった。悔しくて涙が溢れる。彼はぎゅっと私を包み、「このまま寝ようか」そう言って、薄暗い電気を消した。

彼は「また、いつか」と言ったが、彼から連絡が来ることはなかった

いつも目覚めの悪い私は、彼より早く起き、昨日の片付けをしていた。彼が目覚め、ボサボサの髪の毛をかき分けながら、「駅まで一緒に行くよ」と言った。駅まで歩く道で私たちは手を繋いだまま、一言も話さなかった。

駅に着くと彼は、「また、いつか」そう言って振り返り歩き始めた。私はもう見ることができないだろうと彼の背中をしばらく眺め、電車に乗り、昨日と同じ服のまま学校へと向かう。

そこから夏が来ても、私に彼氏ができても、年を越しても彼から連絡が来ることはなかった。彼のインスタグラムを見ると、彼は学生を辞め、ナイトクラブのDJをやっているということだけわかった。

確かに好きって言ってたもんなぁ。私は一回しか会ってない彼に、また会いたくなっている。でも、クラブに追っかけて行くことはなんとなくできなくて。

優しすぎる彼氏とのデートの後、ふと私は赤い提灯を目掛け、飲めないビールを片手に持っている。