私は安上がりな女である。はたまた魔法使いなのかもしれない。コロナ禍で辿り着いた私の極致がこれである。実現できなければ思い込めばいい。自分で自分を騙すのだ。
ウニを、「世界で最もまずい食べ物だ」と自分を騙しながら食べると…
ウニを美味しいと思わない、いや、本音を言えば美味しいが、これは世界で最もまずい食べ物なのだと自分を騙しながら食べれば、そんな気もしてくる。まあ、貧乏の強がりなのだが。
近所のスーパーで半額引きだった抹茶プリンをひとくち食べる。いたって普通の抹茶プリンだ。ふたくちめ、目を瞑って食べる。わたくしは今、京都の超高級旅館でスイーツを召し上がっている。むこうには露天風呂が見える。なんて優雅なのだろう。この抹茶プリンは絶品だ。京都で選び抜かれた宇治抹茶を使用している。おまけに希少な原材料で丹精込めて手作りされたものだ。あら不思議、本当に特別なスイーツに思えてくる。そしてほら、旅行にだって行けるじゃないか。極論、目をつぶればどこに居ても同じだ。
ウイルスに勝利するイメージで飲む。私は元気モリモリ最強人間に
お隣さんからお裾分けにと蜜柑をいただいた。私はいつものように目をつぶる。まず香りを楽しもう。これはアロマとは比にならない、なんて新鮮な、はじける柑橘系の香りなのだろう。皮を剥く、これは貴族御用達の蜜柑だ。わたくしは貴族でございます。お日様をたっぷり浴びて丁寧に育てられた蜜柑なのだ。口いっぱいに広がる果汁。ビタミンも豊富で、ふつうの蜜柑の倍含まれるらしい。明日のお肌の状態も楽しみで、なんだかワクワクしてくる。一石二鳥だ。私はニヤリとしてしまう。なんとも言えない多幸感に包まれる。
風邪予防のために、外から帰ったら必ずする儀式がある。手洗いうがいをして、熱い緑茶を煎れる。猫舌のくせに思い切り飲む。「はい、ウイルス撃退完了!私は元気だ」。ついでにR-1も飲む。「はい、免疫力アップ!ウイルス細胞消滅!」。ここでポイントなのが、自分の体内の細胞たちが戦って増殖し、ウイルスに勝利するイメージをしながら飲むことだ。私は元気モリモリ最強人間になった。そして本当にさっきまであった頭痛が嘘のように消える。
このようなお遊戯をよくしてしまう。暇すぎるのかもしれない。コロナ禍のなかで得たスキルだ。単純なだけかもしれない。けれど思い込みや想像って、実は私たちの幸福度を左右する大きなものなのではないだろうか。
あの大っ嫌いな奴にも笑顔を振りまくぞ。私は本当に幸せ者だ
『ウニは高級で美味しい』。そう信じて疑わないからそう思うだけという可能性も無いとは言えない。この世で初めてウニを食べた人は、あの黒いトゲトゲの物体から一体どのように、このどろっとした中身を取り出し、恐る恐る食べ「こりゃうまい!高く売れるぞ」と思ったのだろうか。真偽は未来人の我々には知り得ないが。
貴重なもの、高価なもの、イメージの刷り込みが私たちの意思決定を左右し、幸福度まで変えてしまう。
私は本当に金のかからない女です。それでいて1人で楽しむこともできる。なんとコスパのいい女。どんな食べ物でも絶品に変えることができるし、魔法だって使えるもん。そう、これからは、欲求を変換して生きていく、コスパのいい女の時代なのである!!!
遠くには湖が見える。ここは緑豊かな大自然の中にある牧場だ。清々しい朝、しぼりたての牛乳を飲む。なんてコクのある味わい深い牛乳なのだろう、甘味があって新鮮だ。カルシウムはイライラを抑えるらしい。これを飲んだから大丈夫。今日一日穏やかで居られるはずだ。あの大っ嫌いな奴にも笑顔を振りまくぞ。私は本当に幸せ者だ。私の感性が、あまりにも単純バカであることは置いといて。こうして今日も脳内お花畑マンの1日が始まる。