大学1年生になった時、大学からの案内で「国際ボランティア」を初めて知って、興味を持った。
内容は、ごみ拾いだったり、建物の修繕の手伝いだったり、プログラムによって様々。
国際関係の学部に進んだ私は、海外に憧れを持っていたし、挑戦してみたいと素直に思った。

初ロシアに、自分ひとりだけ。心臓が突き破って出そうなほど緊張

自分で好きなプログラムを選べる中で、私は「バイカル湖のごみ拾い」のボランティアを選んだ。
ロシアにある世界一深く、透明な湖であるバイカル湖は、世界自然遺産にも登録されている大きな三日月形の湖だ。
耳慣れない音楽、見慣れない風景、魅力的な人。
私は昔からロシアの文化やその生活が気になっていて、これも何かの縁、とロシアに単身飛ぶことにした。
当時クリミア問題で揺れるロシアに行くのは家族にも不安がられたが、好奇心にはどんな不安も勝てなかった。

そうして向かった国際ボランティア。
現地ではスタッフと共に行動することになるが、現地までは自力で行かなければならない。
久しぶりの海外に、自分ひとりだけ。初めて行くロシア。
私の緊張は、体を突き破って出てきそうなくらい跳ねる心臓で自覚した。

ロシアのイルクーツクの空港に着いたのは、集合時間の8時間前。
それしか飛行機がなかった。
さすがに今から集合場所の駅まで行っても居場所もないし、ロシアには不安しかない。

空港での7時間くらい、私はほとんどの時間を待合の椅子で過ごした

ここからが私の空港での思い出の話なのだが、あまりおもしろいものではない。
その空港での7時間くらい、私はほとんどの時間を待合の椅子で過ごしたのだ。
国際空港ではあるものの、そこまで大きい空港ではなく、天井も日本でよくみる空港の景色よりずっと低く、照明が弱いのか薄暗い。
大学に入ってから第二外国語としてロシア語を勉強し始めて、やっと少し見慣れてきたキリル文字が生きていることに感動しながら、空港をまず1周してみた。
そして一通り何があるのかを確認したところで、ロビーにあった椅子に座る。
着いたのが夜だったので、朝までは動くことが出来ない。
お腹もすいておらず、特に困ることもなかったので、そのまま日本から持ってきた本を開く。
そのまま物語の中に潜っていき、気づいたら朝日が静かに空港の中に差し込んでいた。
朝になったからと言って周りがすごく明るくなった訳ではなかった。
そのまま空港のレストランが開くのを待ち、そのタイミングでごはんを食べに向かう。
写真のない殺風景なメニューから英語で適当にメニューを頼み、オーダーし、待っている間外を眺める。
ぼーっと、だんだんここがロシアなんだ、と実感が湧いてくる。
少し不思議な気持ちとくすぐったさを感じながら、運ばれてきた甘い米を食べてビックリする。
これがロシアの食べ物。
これがロシアの空気。
これがロシアの陽の光。

旅先でジワジワと、少しずつ湧き上がる非日常は不思議で、魅惑的

普段旅行に行く時は飛行機が着いたらすぐそとに出て活動を始めていたので、はやい段階で非日常を認識し、ワクワクしていた。
こうして旅先に着いたのにしばらく動かずに、しかも本を読んで日本語と接していたこともあり、ジワジワと少しずつ湧き上がる非日常は不思議で、魅惑的だった。
レストランを後にすると、私はまた先ほどと同じ場所まで戻り、本を広げた。
出発する前に観光地も一応確認していたが、不安が大きく勇気がなく、空港で過ごすことに決めた。
そうして日本から持ってきた本3冊を読み切り、伸びをする。
まだ集合時間にははやいものの、慣れないロシアのバスに乗ることを考えると、そろそろ出かけてもいい時間にはなっていた。

空港から出ると、薄い雲がかかった空が広がっていた。
「どこに行くの?」
出たところで、そこまで歳が変わらなそうな女の人に英語で声をかけられた。
「駅まで。駅で集合になってるの」
「ロシアに慣れてない人は乗るの大変だろうから、バス停まで連れて行ってあげるよ」
そうして親切な人の助けにより、無事に集合場所にたどり着けた私は、ホッと胸を撫で下ろす。
ジワジワと旅先に染まっていく感覚をそれ以降は体験することもないが、たまにはいいなと思ったのだった。