2019年3月は、就職活動中だった。前回のエッセイで、「2019年3月に大学を卒業した」と書き出しているが、実際は2020年3月である。公開されたのが嬉しくて、何回も見ているうちに誤ってしまったことに気が付いた。
履歴書を何度も書き直し筆記試験対策をし、複数の合同企業説明会に参加し、緊張しながらも「最低1個以上質問する」と意気込み会社説明会に足を運んだ記憶がある。

新卒の就活で第一志望に落ちた。それは順調だった私の初めての挫折

そんな私の「新卒」での就活は、結果から言うと失敗に終わる。まず、3年生の後期に入ってからのスタートで、取りかかるのがかなり遅めだった。インターンシップにも翌年の春休み期間中に初めて参加したが、周りには2年生が多く圧倒されたのを覚えている。
また、条件を絞りすぎて(「県内に本社がある」「週休2日制」「シフトではなく定時」など)、結局エントリーしたのは5社のみだった。おそらく、本気で取り組んだ人からしてみれば「ありえないこと」だろう。

だが、当時の私は「第一希望の企業に絶対に入れる!」とかなり自信を持っていた。説明会やインターンシップで、手応えを感じたからである。そこには最終面接で落ちてしまい、立ち直るまでに1か月ほどかかった。それは、色々あったものの中学受験も大学受験も無事合格し、これまで順調に来ていた私にとって、初めて経験した大きな「挫折」だった。
卒業後、臨時職員として入った職場は、偶然にも第一希望の企業の本社ビルと近かった。それに気付かないくらいには、自分の中でもうとっくに、気持ちの整理はできていたはずだった。
しかし、帰りのモノレールを待つプラットフォームからそこが見えたとき、とても悔しくてたまらなくなった。それ以来、待つときはいつも見ないように下を向いてやり過ごしていた。

あの頃の自分に言いたい。「無理して就活の波に乗らなくてもいいよ」

そんな私が完全に吹っ切れたのは、転職に成功し心にゆとりを持てる日々が過ごせるようになり、自分のやりたいことが見つかってからである。 周りの目を気にしながら、ライバルと自分を比べて自分の足りないところはどこか、常に気を張り詰めていたあの頃の就活と違って、転職は自分のペースで進めることができた。
今思えば、大学時代も周りの子達と相談して同じ講義を取ったり、空きコマは生協などに集まって一緒に課題に取り組んだりして過ごすよりも、自分が興味のある講義を一人で受けたり、空きコマは空き教室で一人課題に取り組むほうが好きだった。

つまり、「自己分析」が出来ていなかったということになるんだろう、とぼんやり思う。あの頃の自分に、無理して就活の波に乗らなくてもいいよと教えてあげたい。だがそれは結果論であるし、大学生にとって就活は、こなすべきイベントとして当たり前に存在しているため言いづらい部分もあるけれど。
それに、就活を通して知り合った友人もいるし、小学校の同級生と久々に再会することもできて必ずしも苦い思い出ばかりとは言えない。

新卒の就活は、一世一代のイベントだと思い込んでいた

そんな就活で、印象に残っているルールがある。「前髪ぱっつんは幼く見えるからNG」というものだ。マナー講座のレジュメに載っていたが、前髪は伸ばさずにいつもすぐに切っていた私にとって、地味に痛手であった。
伸ばしきれなかった前髪を横に流すことができなくて、ピンで留める。それも子供っぽいかと思い、ヘアスプレーで固めたら不自然になる。ピンを髪で隠す方法を試してみるが、お辞儀すると垂れてくる……。面接前はいつも憂鬱になった。また、多いときで週に1回、通いつめたこともあるカラオケは、履歴書の趣味に書けなかった。
そんな些細なことでさえ、一世一代のイベントと思い込んでいた就活には、死活問題に思えたあの頃。本当の自分は出せてないな、と心の隅で思っていた。