正直、彼女に直して欲しいところは山ほどある。
「明日空いてる?」と、送ったラインには2日後に平然と「空いてない!」と、返してくるし、毎回集合時間には必ず10分遅れてくる。
待たされることが嫌になって、10分早めて集合時間を伝えようもんなら、「なんとなくそんな気がして」と、20分遅刻してくる。
気付けば人生の半分以上を共に過ごし、完全なる腐れ縁と化した仲だが、私が彼女を好きな理由はちゃんとある。
カーテンすらない、一人暮らしの部屋。食べ物を買うお金はない
学生時代、家出半分に実家を飛び出し一人暮らしを始めた。
ありったけのお金をかき集めてなんとか引越しを終えたものの、家のものを揃える余裕もなく、今日生きていくのが精一杯。
食べ物を買うお金もなく、アルバイト先で支給される飲み物が命綱、そんな生活だった。
ところが、一人暮らしの家に溜まりたいのが大学生。
当然、私の家で遊ぼうぜ! という話になる訳で、せっかくだから来て欲しい気持ちはあるものの、殺風景すぎる部屋に何か思われるのではないかという不安から、「その日は予定があって」と断っていた。
引っ越した後の初めてのお給料で買ったものがカーテン、というほどに物もお金もなかった。
突然やって来た彼女。「ご飯全然食べてへんやろ」
そんな生活を始めたある日、「明日行くわ」と突然連絡をよこし、翌日本当に彼女はやってきた。
2時間かけて私の大学まで迎えに来た彼女は、
「ご飯全然食べてへんやろ、なんか作ろ」
そう言って近くのスーパーに向かった。
時期的にも鍋だろうという話になり、家に何があるかと聞かれたが、何度も言うが何もない。調理器具は実家から持ってきたけれど、食べ物を買うお金がなく、引っ越してから料理を作ったことがなかった。つまり、調味料すらない。
その話を聞くと彼女は、
「じゃあ調味料も入れないとあかんな」
と、醤油や味噌に続けて塩と砂糖の袋を買い物かごに入れた。
そこで気づいた。本来どこの家にでもあるはずの塩と砂糖の容器がない。
そのことを伝えると彼女は笑いながら、
「そんなん後で買えばいいやん、引越し祝いに買ってあげる」
と言った。
情けない姿を笑って受け止めてくれた彼女の存在は、かけがえのないもの
2人分にしてはかなり多めな鍋の用意のお会計を彼女が済ませてくれた後、近くの100均に寄り、彼女は言葉通り黄色い水玉の調味料入れを買ってくれた。
こんなものを友達に買わせてしまう恥ずかしさを感じつつ、当時は"こんなもの"すら買うお金がなかった。
それを分かった上で、あえて引越し祝いと名目を付け、私に気を遣わせないようにしながら、買ってくれた彼女の優しさと懐の広さに感謝しながら、その時に彼女のことは一生手放せないな、と思った。
そしてやたら多めに買った2人分の鍋の材料も、しばらくの間ちゃんとしたご飯が食べれるようにという彼女の優しさだったことに後々気づく。
あの時、段ボールの上で食べた鍋の美味しさと、黄色い水玉の調味料入れ、そして何より飾るどころか、情けなさすぎる姿を笑いながら受け止めてくれた彼女の存在そのものが、私にとってかけがえのないものになった、忘れられない夜の話。