2019年3月、私は中国語学専攻で大学を卒業した。
しかし、自己紹介すら満足に出来ないレベルだったため、社会に出てからはいつも「全然話せないんですが……」と付け加えるまでがテンプレートだった。情けないが完全に自身の勉強不足が招いた結果だと反省している。

「私も留学に行けてたら」。留学帰りの同級生との差に卑屈になる私

それでも入学当初は、初めて触れる英語以外の外国語として面白さを感じ、検定に挑戦するなどしていた。遠ざけてしまうようになったのは、私のつまらない嫉妬が原因だった。

当時私がしていたアルバイトのうち、私の代わりがいないと思い込んでいた仕事があった。そのため必然的に留学は諦めていた。
しかし、留学帰りの同級生たちが、1学年下でゼミを一緒に受けるようになり、ペラペラ話せる彼女たちの前で卒業論文の進捗を読む苦痛。また、逆に彼女たちの発表を聞いて、何かアドバイスをしなければならないという負担。そのような状況の中で、いつも思っていたのは「私も留学に行けてたら良かったのに」。
実際は、そんな自分を奮い立たせ、基礎から復習して話せるよう努力するべきだったし、本当に行きたければアルバイト先に相談したら良かっただけの話だった。しかし、卑屈になってしまった私が選んだのは、いかに発表の時に、中国語を発音しないようにすませるかという、せせこましい方法だった。

見知らぬ土地で、母語をも使わず切磋琢磨するアイドルの姿に感動

そんな私が再び中国語に向き合いたいと思うようになったのは、あるアイドルとの出会いがきっかけだった。
2020年7月、友達にお隣韓国のアイドルを勧められた。13人組で大所帯である彼らの売りのひとつが「多国籍」。アメリカ出身が1人、アメリカと韓国のハーフが1人、そして中国人が2人所属しており、そこで私は中国語に再会した。
中国人の彼らはデビュー前に、韓国語での会話力を高めるため、お互い中国語を使わずに、普段から韓国語を話すよう意識して励んでいたという。
海外渡航経験もなく、未だに実家暮らしの私は、見知らぬ土地で生活する苦労をしたことがない。ましてや母語も使えないなんて、そのような過酷な状況を、正確に推し量ることは出来ない。そのため、このように切磋琢磨する姿を、エピソードを通して知り、深い尊敬の念を抱いた。
それから当然のことではあるが、字幕がなければ彼らが何を話してるのか分からないということに気づかされた。海外のアイドルを好きになるのは初めてだったため、これは非常に大きな衝撃だった。

外国語を習得したアイドルと、妥協していた過去の自分を比べ一念発起

また、彼らが一生懸命日本語を話す姿を見て、最初は微笑ましく思っていた。しかし、デビューから現在を比べて、どんどん上達していてとても感動した。
さらに、これまで日本語の曲も出しており、今年4月に出された最新曲は、おそらく何も言わなければJ-POPだと思うのではないか?というくらい、クオリティが高かった。レコーディングの様子が撮影されている動画を見て、その真剣さもひしひしと伝わってきた。特に韓国で日本語の歌を歌っている中国人2人を見ると、さらに込み上げてくるものがある。
そんな彼らが、外国語である日本語を話したり歌ったりしている姿と、妥協を重ね続けていたあの頃の自分を比べ、とても恥ずかしくなってしまった。それから私も頑張らなくては、と一念発起した。

まずは中国語を一から習得しようと、現在、中国語会話教室に通っている。もう自己紹介は完璧に出来るようになった。自信を持って「中国語で卒業論文を書きました」と言える日も近いかもしれない。
また、中国語と英語は文型が似ていて、英語も同時に勉強したほうが理解が深まりそうだと感じ、独学で取り組んでいる。
韓国語は、ハングルを少しずつ覚えている段階ではあるが、いつか字幕なしでも彼らの話を理解できるよう、これからも努力を重ねていきたい。