学歴フィルター。就職活動において、出身大学が足切りの基準にされることだ。昨今、世間の批判もあってか、あからさまな企業は減っているようだが、学歴が一つの目安になると感じる人も多いのではないか。
そんな「就活における学歴」について、私が体験したモヤっとした話。

「私もこの会社に入って、社会を変えたい」。万全な面接の準備をした

大学3年生の3月。一般の就職活動が解禁し、説明会や面接が始まった。私もたくさんの企業説明会に足を運んで、身を捧げる1社を吟味していた。
とりあえず大手だからと話を聞きに行った会社が第一志望となるA社だった。A社は日系の大手企業で、IT関連のビジネスをしている。
私が関心を持っていた一次産業に関してデジタル化を図るサービスを提供していて、事業内容に強く惹かれた。「私もこの会社に入って、社会を変えたい」と志望度はとても高かった。
エントリーシートを用意し、自己PRを書く。大学での活動や留学の経験、サークルでの取り組みや仲間と何かを作り上げた経験など、これまでの自分を最大限知ってもらえるよう推敲した。面接の練習も繰り返した。
大学に入学してからの話は、努力したと思う経験が多く、アピールポイントが多数あると感じていた。会社の事業内容もくまなく目を通し、面接の準備は充分だった。

「面接では出身大学を仰らないでください」。「なぜ?」と思った

いざ迎えた一次面接の日。受付をし、書類をもらって会場に誘導される。既に他社の面接を受けていたので、リラックスした気持ちで順番待ちの席に着いた。
受付でもらった面接の流れを説明した書類を見て思わず、「え?」と口に出してしまった。「面接では出身大学を仰らないでください」。
「なぜ?」と思った。自己紹介でも自己PRでも大学の話はするつもりで考えており、大学名を言わないように気をつけて話さないとな、と少し焦った。
入室し、面接が始まる。一息つくと、「自己紹介をお願いします。ただし、大学名は仰らないでください」と面接官は丁寧な口調で言った。念を押されたので、自己紹介では名前と学部、学んでいる内容などを述べた。
頑なに大学名だけを言わせないのはとても不自然に感じたが、事業内容に惹かれた第一希望だったので、準備していた内容を伝えた。大学名以外は。

モヤモヤした感情が残った。大学は私のアイデンティティの一部だから

面接は無事終了し後日通過の通知は来るのだが、モヤモヤした感情が残った。私は、早稲田大学の学生で早稲田が好きだった。大学とその学部に憧れて受験をしたことも、入学してからの勉強や留学も全部、私に影響を与えている要素でありアイデンティティの一部であると感じている。
そのため、就活生である私から「早稲田大学の学生である」ということは、切っても切れない、というか切りたくないものだった。
後々聞いた話だが、A社の面接方針としては、他の候補者が他者の大学名を聞いて怯まないように、学歴で合否を決められていると感じないように、という配慮なのだという。
私の4年間の経験は、誇りを持って話したい内容だった。大学に入って、どんな人達と出会って、何を学び、どう成長したか。そしてそれが、自分で選んで受験した早稲田大学だったからできたということも伝えたかった。

「大学名を口にするな」という面接では、個性を引き出し損ねると思う

もちろん、「早稲田大学出身だから自慢したいのだろう」という意見もあると思う。その通り。私は自分の大学が好きで自慢したい。
しかしそれは、早稲田大学がいわゆる有名私立大学だからではなく、そこでの出会いと自分の挑戦や成長に価値を感じているからである。自分の経験を持って会社に貢献できるとPRするのであれば、そこで他者の学歴を気にする必要があるだろうか。
学歴に敏感な社会ではあるが、学歴がある人だけが成功しているわけでもない。誰にでも経験の中で強みと呼べるものはあるはずで、自分の強みに自信を持てば良いではないか。それを会社側が評価すれば良いではないか。
学歴フィルターも厄介だが、「大学名を口にするな」という面接では候補者の個性を引き出し損ねると私は思う。