私は大学3年生の夏から冬に、アメリカへ留学をしていた。
半年ほど現地にいれば、英語だけでなく、考え方や習慣さえもアメリカナイズされる。接客態度が悪いスタバの店員を気にしなくなったり、バスの席でたまたま隣だった初対面の人に話しかけたりするようになったり。
日本にいたときはメイクしてそれなりにかわいい服を選んでいたけど、留学先ではすっぴん・Tシャツ・ジーパンが定番スタイル。多国籍国家のためか、太っていることをネタにする文化は存在しないから、結構気楽で生きやすかったと思う。

アメリカで実感した。世界から見た日本の就活は異質

ある日、授業で日本の就活をテーマにプレゼンをした。
中途よりも新卒採用が最重要なこと、長時間労働による過労死の問題、低賃金のわりに長時間労働で若者を搾取するブラック企業について発表している間、教授を含めたリスナーはスクリーンを食い入るように真剣な眼差しで聞いてくれた。
発表後は、次の授業に間に合わないくらい意見や質問の嵐。そして、中国人のクラスメイトからは「ナナホ、絶対にブラック企業に入ったらだめよ。死んじゃう。日本じゃなくて中国に来たらどう?」と心配された。
世界から見た日本の就活はかなり異質な存在なんだと実感しつつ、結局は通過儀礼のようなもの。私は、「留学を武器にして面接官にアピールすればなんとかなるっしょ!」と気楽に構えていた。
帰国後は黒いスーツを着て、きちんと髪を結んでナチュラルメイクの毎日。誰にも気を遣わないアメリカの日常が物凄く恋しかった。いつの間にか「就活どう?」が合言葉になり、聞くのも聞かれるのもストレスだった。

グローバルに働く夢は破れて、社会にも家にも居場所がない

同級生は夏にインターンに参加したり、キャリアセンターに通って履歴書や自己分析を進めていたらしく、地元企業から早めに内定を貰う子もちらほらいた。留学していた分、私は遅れているんだと自覚し、焦り、なんとなく地元で働くのはカッコ悪いと感じて高速バスで東京の合同説明会に行った。
東京ビッグサイトに溢れるスーツを着た学生は、黒い集団というよりも塊のようで、開場とともに流れる様子は黒い波のよう。周りの波に飲まれそうになりながら必死に頷き、メモを取る。これが日本の就活なのか……と一気に怖くなった。
留学経験を生かして英語を使ったグローバルな仕事をしたい!と能天気でアメリカかぶれだった私はどんどん自信がなくなり、迷走した。夏になってもお祈りメールばかりで、仲の良いグループの中で内定がない人、通称NNTなのは私だけになっていた。
親からも呆れられ始めて、社会にも家にも居場所がない。おまけに外は暑くて、スーツで少し歩いただけで汗だくになる自分が惨めだった。かつて抱いていたグローバルに働く夢はとっくに破れて、とりあえずニートを回避したい!その一心だった。
もう後がないと悟り、「感じの良い学生のオーラ」を醸し出して挑んだ地元の合同説明会で、美人なお姉さんに話しかけられた。この人こそが、私がのちに内定を貰う会社の人事だった。

自分のままでいられる環境なら、それが正解!未来は自分で作れ!

就職して3年。私は英語をほとんど使わない通信系の営業職に就いている。この事実に、以前のグローバル志向だった私なら発狂しているかもしれない。
心からやりたい仕事ではなかったものの、会話をして人を笑顔にすることが好きだったことや、負けず嫌いなところ、好奇心旺盛で新しいもの好きなところは意外と今の仕事に合っていると思うし、仕事自体は好きだ。
縁なのか、たまたま相性が良かったのかわからないけど、選考は驚くほどスムーズで、内定に導かれるような不思議な感覚だった。理想を追い求めるのをいったん辞めて、いかに自分と向き合えるかが勝負だと思う。
特に最近は予測できない時代に変化していて、「こうすれば正解」というルートは消えかけている。時には他人が茶々を入れてくるかもしれないけど、あなたの責任を取ってくれるわけじゃないんだから、自分のままでいられる環境を選べばそれが正解!未来は自分で作れ!なーんて、過去の自分と話せるなら言ってやりたい。