「大丈夫?体調が悪いんですか?」
何度も説明会に足を運んだことで、顔馴染みとなった採用担当者に突然声をかけられる。
「あぁ、ついにやってしまった」と思った。一番かけられたくなかった言葉にどきりとして、頭が真っ白になってしまったことを、とても良く覚えている。
就活中、寝不足でもないのにウトウトするようになった
それは、とある企業のワンデイインターンに参加した日のことだ。同企業のインターンには複数回参加しており、採用担当者とは顔馴染みになる程だった。その日は短時間のコースでワークはなく、話を聞くだけ。すぐに終わるし疲れていても大丈夫だろう思ったが、それが逆目に出た。
スライドを見ている最中に、耐えられない眠気によりつい大きく船を漕いでしまったのだ。冷や汗が流れる、とはこのことかと実感する。
「すみません、少し体調が悪くて」
震える声で、絞り出すようにそう言うのが精一杯だった。逃げるように会場を後にし、帰宅後には予約していた残りのイベントを全てキャンセルした。
毎日のように辛さを感じるようになったのは、いつからだっただろう。身体は常に重く、寝ても疲れがとれない。顔を無理に血色良く見せるため、時間のかかるメイクをして、履き慣れぬパンプスに足を突っ込んで歩くようになってから、いつしか寝不足でもないのにウトウトするようになっていた。
眠気の原因は病気。「あなたがダメなのではない」と言われた気がした
その日も疲れた顔を時間をかけたメイクでごまかして、眠気対策のため苦手なブラックコーヒーを駅の売店で買い、会場に着く前に急いで喉に流し込んでいた。
会場につけば緊張して眠気など吹き飛ぶだろうとの考えは甘く、プロジェクターをつけたことで現れた暗闇に引きずり込まれるように、私は眠気に誘い込まれていった。
逃げるように会場を後にした私に残ったものは、激しい後悔と胃の痛みに、ぬるくなったボトル入りのブラックコーヒー。ただ、それだけだった。
それから半年が過ぎてなんとか就活を終えたが、働ける自信がなく、内定は全て断ってしまった。どんな時も、何をしていてもまた眠ってしまうのではないかと思い、日々を過ごすことが酷く怖かった。
その後とある病気を疑い、訪れた病院ではじめて眠気の原因が判明した。病気だと分かったとき、「あなたがダメなのではない」と言われたようで涙が溢れたことが、今でも忘れられない。
就活が全てではない。皆と同じ道じゃなくても大丈夫
気がつけば、就活を終えてから数年が経っていた。相変わらず病気とは付き合っているものの、今は自営業として仕事をしながら日々を歩んでいる。この仕事ができてよかったと思えていることも、あの時の痛みがあってこそだ。辛く苦いページを無理矢理閉じて、ようやく前を向いて歩けている。
あの時の私に伝えたい。就活が全てでも、皆と同じ道が全てでもない、と。ボトル入りのブラックコーヒーを見る度に、未だに胃痛を感じている自分がいる。
過ぎた過去は、変えることはできない。忘れられぬ痛みも、いつか私の一部となって立ち止まらずに済むようになりたいと、心から思う。