2022年度卒の就活生として就職活動をしていた私は、3月から2か月間、会社説明会や選考会に参加していた。情勢のこともありオンラインでの参加が多かったが、何社かは実際に会社まで足を運んだ。
オンラインはスーツを着て髪を整えるだけでいいが、現地に行くとなるとパンプスを履かなければいけなかった。私はパンプスを履くのがとても嫌だった。
昔から、新しい靴を履くと必ずと言っていいほど靴擦れをしていた。新しいスニーカーを1つダメにしたこともあったくらいだ。
ヒールのある靴はもってのほか。しかし、それが就活のテンプレな服装なら、それに従うしかなかった。
ある会社説明会に参加したとき、靴擦れが気になって集中できなかった
ある会社の説明会に参加したときのこと。アパートから駅まで30分歩き、本社まで送迎してもらった。たいした距離は歩いてないはずだった。
入口でパンプスからスリッパに履き替えたとき、かかとが赤黒い血に染まっていることに気がついた。しかも、かかとからの出血でベージュのストッキングが肌に張りついている。スーツの裾で半分くらいは隠れていたからバレていないとは思ったが、気になって説明会どころではなかった。
鞄の中に入れていた絆創膏を貼るという手もあったが、ストッキングを脱いで履きなおす、なんてことをする余裕はなく、我慢することにした。この日から、パンプスを履くときは必ず絆創膏を貼ると心に誓った。
その1週間後、別の会社の説明会で隣の県に行くことになった。移動は高速バスで2時間半、電車で10分、徒歩で15分の長丁場。
前回の反省を生かし、かかとには絆創膏、途中までスニーカーを履いていくことにした。会社の最寄り駅でパンプスに履き替え、目的地に向かって歩く。十数分の道のりとはいえ、ちょっとした段差でも転びそうになってしまった。それでも、絆創膏がクッションになり、痛みなく目的地に到着できた。
今回の説明会は乗り切れる。根拠のない自信が湧いていたのは最初だけだった。
前回の反省を生かし「靴擦れ防止策」をして挑んだ、他の会社の説明会
その説明会は、参加者10人程度の小規模なものだった。しかし、前回参加した説明会の参加者が自分1人だったのもあり、同じ22卒がいる空間にいるだけで緊張していた。
始まった会社説明会。説明を聞いた後に社内を見学する簡素なものだったが、周りのレベルの高さに私は怖気づいていた。
質疑応答の時間。説明の中で疑問に思ったことや福利厚生、専門的なことまで、他の参加者たちは積極的に手を挙げていく。私はといえば、できた質問は1つのみ。しかし、それは聞くタイミングが悪かったのか、「社内見学のときに聞いてみますか」と社員に返されてしまった。周りの人たちに自分がどう映っているのか、少しだけ気になった。
説明会のアンケートを書いている時間。社員が参加者の席を回って一言話しかけていた。私のところに来た社員は、「今日はどうやって来たの?」「あの高速バスの名前なんて言うんだっけ?」と世間話程度の会話をして、隣の席の女子のほうへ去って行った。彼女には感想を聞いているみたいだった。
インターン参加経験があるという彼女は、「最初は事務職希望だったのですが、今日の説明を聞いて技術職を経験してから希望するのもいいかなと思ってます」と言った。
自分だったらそんな言葉思いつかない。はきはきとした口調に、自分との差を見せつけられた気がした。内定をもらえるのは、きっとこういう人なのだ。
遠い存在だと思っていた彼女も、私と同じようにかかとに絆創膏があった
会社見学をする際、その彼女と一言だけ言葉を交わした。後ろのほうにいた私に、「(前のほう)見えますか?」と聞いてきたのだ。
綺麗な笑顔だった。気さくで、笑顔が魅力的で、将来のビジョンを確立している彼女に劣等感しか抱けなかった。自分はあんな風にはなれないと自信を喪失してしまった。
しかし、社内見学が終わってオフィスのある部屋から出るときだった。パンプスを履くために屈んだとき、前にいた彼女の足元が偶然目に入ってしまった。かかとに貼られた絆創膏がストッキングの下からうっすらと見えている。私と同じように靴擦れ防止なのだろう。
それを見て私は少しだけ安心してしまった。自分から遠い存在だと思っていた彼女も、私と同じ心配をしているかもしれない。同じ悩みを持っているのかもしれない。
そう考えただけで、なくなっていた自信を少しだけ取り戻せた気がした。