高校時代、初めて一目ぼれをした。
別のクラスだけど、英会話の授業でだけ一緒になる男子。背が高く爽やかで英語も上手く、話したことはなかったけれどずっと気になっていた。
彼と彼女の声に耳を立てると、彼の言葉には彼女への好意が…
彼の席は私のななめ後ろ。英会話の授業では隣同士でペアを組むから、私が彼とペアを組むことはなかった。彼のペアは私の一番仲の良い女の子だ。自分のペアとロールプレイをしながらも、彼と彼女の声が気になって仕方がない。たまにはペアを変えてくれたらいいのに。
体育祭の練習のとき、私と彼女と彼が同じ組だということがわかった。
彼が彼女に「同じ組だったんだね」と声をかけているのを聞いてしまったとき、私の中にどすん、と暗い感情が湧いた。授業のロールプレイで話すのと、授業以外の場面で話すのでは意味合いが違う。
彼の言葉には好意が含まれているような気がした。
友達は明るく気さくな人柄。女子からも好かれるし私にとっても大切な存在だ。彼女のことを悪く思いたくないという気持ちと、彼と仲良くできることを妬む気持ちと、たまたま社交辞令で話していただけかもしれないという楽観的な気持ちがないまぜになっていた。
このままでは、彼は永遠に私の名前すら認識してくれず高校生活が終わってしまう。そう考えた私は一世一代の勝負を仕掛ける気持ちで、彼への手紙を書いた。
とりあえず存在を認識してもらえれば、そこから何かが変わるかもしれない。甘酸っぱい思いを手紙にしたため、どのタイミングで渡したらよいかと思いを巡らせていた。
エレベーターで彼と鉢合わせ。ラッキーな気持ちが絶望に変わった瞬間
そんな時、彼女と他の友達一緒にエレベーターに乗っていると(私の高校にはエレベーターがあったのだ)、彼と彼の友達数名がエレベーターに乗り込んでいた。思わぬラッキーに内心ドキドキしていると、彼の友達が爆弾発言。
「なぁ〇〇、この中に好きな子いる(笑)?」
私は凍り付いた。楽観的な思考は崩壊した。彼は「何言ってるんだよ~」と笑って受け流していたが、明らかに彼女のことを指しているその言葉は私に悲しい絶望を与えた。
いくら私と彼が話したことがないとはいえ、彼は私と彼女が友達であることは知っているはず。手紙を渡せば彼を困らせるだろうし、はっきりと振られたら私は大切な友達を恨んでしまうだろう。
毎日一緒に過ごしている友達を恨んでしまうかもしれないというのは、恋に破れるより怖いことだ。勝算のない恋と、大切な友達。その残酷な二択を前に、私に恋を取る勇気はなかった。
甘酸っぱい青春の思い出を振り返り、ビールを飲み笑い合う彼女と私
高校卒業から約10年後、久しぶりに彼女と会う機会があった。
私が彼に片思いしていたことは彼女も薄々気づいていたようだ。そして、彼が彼女に好意を寄せていたことも。
「あのエレベーターのときは本当にどうしたらいいか分からなかった!」
当時を振り返って彼女は言い、二人でビールを飲みながら笑いあった。あのとき手紙を渡さなかったから、今もこうして何のわだかまりもなく彼女と楽しく笑い合えている。
私は自分の選択に後悔はない。彼と彼女の間に何か進展があったのかと言うと、何もなかったようだ。そのことに少しほっとしてしまう自分も、やはり存在している。
彼の名前をSNSで調べてもまったく出てこない。SNSをやっていないのかもしれない。
今どこで何をしているかわからない彼。私の甘酸っぱい青春の思い出。彼の中に「高校時代に恋をした子の友達」程度でもいいから、私の存在が記憶のほんの片隅にでもいてくれたらいいなと思う。