私は「一人」が好きだった。
一人の空間、一人で好きなことをして、好きなものを食べる。そんな自由を愛していた。だから、誰にも依存しないと決めていた。
だけど、寂しかった。何でも話せる人、一緒にいてくれる人、私の全てを受け止めてくれる人。そんな人がいるはずもないと思いながら、どこか運命や奇跡のようなファンタジーを期待していた。

彼と絶対こうなるまいと思っていたのに、義務のように交際し同棲開始

ある日、ふとしたことから心が折れた。その時、ふと"あの人"と一緒になってしまった。出会った時から「絶対こうなるまい」と思っていた人だった。
でも、出会ったのは必然な人だと感じた。その人は私の宿敵である父に似ていた。父は私のことを傷つけ続け、私のことを「ダメな人間だ」と言う人だった。だから、すごく嫌いでもあった。なのに、「付き合うのは義務だ」くらいに感じた。私の心にぽっかり空いた穴を埋めて欲しかった。
頭で考えると、絶対に良くない選択だとわかっていた。でも、ただ隣に私というしょうもない人間を認めてくれる人がいれば、自分が生きている感覚が戻ってくるんだと思った。
だから、依存しようとした。自分を本当に好きになってくれる人を求めていた。
一緒にいた時間は楽しかった。知らないことを知って体験して、くだらない時間潰しをして。彼に染まる生活は新鮮だった。
そして、彼に「ずっと一緒にいよう」と言われ、同棲を開始した。

一緒にいる時間が長くなると同時に、求められるものも増えた。当たり前のようにやっていた行動が制限された。その数は日に日に多くなった。
人が一緒にいると必ず価値観の差異がついてくる。それがわかっていたから一生懸命合わせようとした。私は自分が人と暮らせるレベルじゃないダメな人間だとわかっていた。だから、合わせなきゃいけないと思った。彼に嫌われないように必死だった。
でも、怒られ、責められた。とても苦しかった。でも、好きになって欲しくて我慢した。

彼は私を追い詰め、崩れかけていた自己肯定感がボロボロと崩れ落ちる

段々と時間を重ねるにつれ、喧嘩が増えた。時間が経つにつれ、自分も相手の欠点が見えるようになった。お互いの欠点を指摘しあうその喧嘩はヒートアップし、止まらなくなった。
喧嘩のたび、家から追い出された。彼の家は、私の家ではなかった。私は帰る家はなくなった。その度ネットカフェや友達の家に泊まらせてもらった。
喧嘩のたび、元々崩れかけていた自己肯定感の壁がボロボロと崩れ落ちる感覚がした。
「自分の居場所は世界のどこにもない」
その感覚は今まで実感したことないくらいの大きさで私を追い詰めた。寝られず、自分が消えた方がいいんじゃないかと思うことが増えた。

友達に言うと、「その人はおかしい」と言われた。確かに、私から彼に何か指図したり合わせて欲しいと言ったことはないのに、私は彼に合わせている一方だった。その上下関係は恋人としておかしいと思った。
でも、私はまだ希望を求めていた。自分を好きでいてくれる人を探していた。だから、彼のところに戻った。「お互い悪いところを直そう」と言いあった。
そのおかげで喧嘩が悪化しないで済んだこともあった。
でも、彼が私に「合わせてくれ」という基準は変わらなかった。私は改善していると思っていた。しかし、彼の目は私に厳しかった。
言われるたびこれ以上どうすればいいのかわからなかった。私のポテンシャルはもう限界だった。「何回も言われても治せない自分は死んだ方がいいのかな」と思った。その悲しみを怒りとしてぶつけた。
私を追い詰めているその人が憎く感じた。好きと憎悪は紙一重だと知った。私は認められたいがあまり、自分を削っていた。

何度も信じてしまうと離れられなくなってしまうから、別れを決意

自由を最も愛していたはずなのに、今の自分は全て彼の都合に合わせるロボットになっていた。
彼が休みの日は友達の誘いを断った。彼が帰ってくると、友達の電話を切った。疲れている日も、家事を一生懸命手伝おうとした。早く帰れる日は、彼の好きなものを買いに行った。
体がだるく家でゴロゴロしていたい日も彼と一緒に出かけ、彼の食べたいものを食べた。一人にすると怒る彼の側に寄り添った。勉強や趣味に費やす時間はなくなった。
結果的に自分を守るためにやっていたことは自分を殺していた。
後悔することが増えた。
でも、まだ彼に期待してしまう自分がいた。
しかし、これ以上一緒にいると憎しみばかり増えていくのがわかっていた。
彼が素敵な男性には見えなくなった。ただの憎たらしい悪魔のように感じた。
ある時、私が「苦しいのを何でわかってくれないの?」と言ったことがある。そうすると彼は「じゃあなんで俺の苦しみはわかってくれないんだ」と言った。
「もう無理だ」と悟った。
このまま時間を重ねたら私が死んでしまうし、彼を苦しめることにもなる。
信じていた相手に裏切られることは何より辛い。しかし、何度も信じてしまうと離れられなくなってしまう。
だから、離れることにした。

「もっといい人」に出会えないこともあるかもしれない。一生独身のままかもしれない。不安はたくさんある。
でも、未来を信じることこそが未来を広げる唯一の術なのだ。
彼はそれを気づかせてくれた。
また、彼との時間が思い出になる日を楽しみに待とうと思う。