あの日に戻れるなら、私は高校1年生の3月のあの日に戻りたい。

現在22歳大学4年生、彼氏いない歴=年齢の私は、たった一度だけ告白される機会があった。ただ、自分はその場所から逃げてしまった。彼は周りに冷やかされながらも勇気を出して頑張っていたはずなのに。

高校1年生の時だった。私が通っていた高校では海外研修が必須で、コロナなんて単語すらない時期だったから、私達も海外研修に参加した。
たぶん、後に告白しようとしていた彼――Kとしておこう――と仲良くなったのもこれがきっかけである。とは言え恋愛経験が乏しい私は、今でも何がきっかけでこうなったのか全く分からない。

Kが買ってきてくれた飴は、私のニックネームと同じ商品

Kと私は同じクラスで研修を受けていて、座席が前後だったことからよくペアワークを行っていた。その時、他愛もないことをたくさん話した気がする。当時は珍しかった会員制大型スーパーで買った消しゴムが大きいとかそれくらい。それ以外の接点と言えば、研修で組み込まれていた美術館で見た同じ絵を2人共気に入っていたこと。

研修の後半から、私達は少人数のグループに分かれて、各地で研修を受けることになっていた。私とKは別々のグループだったので、帰国前日まで会わず、チャットもしなかった。
ホテルではそれぞれ久々に会う友人との会話を楽しんでいたので、帰国するまで全く会話はしていない。次にKと話したのは、日本に着いて空港から学校に戻るバスの中だったか。

出発まで暇を持て余した私のところに、いきなり何かが飛んできた。
思わずはたき落としたそれは飴だった。その当時ニックネームとして呼ばれた言葉と同一の商品を買ってくれたらしい。
タダでもらったのだから返礼はしなければならないと考えた私は、部活でホワイトデーに配るお菓子を作る時に、Kのお礼も加えようと決めた。
ホワイトデー当日、私はKに飴のお礼としてお菓子を渡した。これで金銭が絡む関係がなくなったことに私は安心していた。
ところが、その翌週。Kは私にポッキーをくれた。苺味でハート型の季節限定のポッキー。「これ、ハート型だから」と言ったKの言葉は完全に茶化しだと思っていたのだが、事の顛末を見ていた同じ部活に所属する友人からの冷やかしが止まらなくなり、話を聞いたアンチリア充の友人からは裏切り者扱いされ、先輩からは温かい目で見守られ、火消しに苦労することになった。

打ち上げ後に流れる異様な雰囲気。私の取った行動は…

それから春休みに入り、私は部活でスランプに陥った。
大会で年下に負け、膝を痛めることもあったため、Kのことは忘れていた。そんな中、クラスの打ち上げが行われた。
くじ引きで引いた席に座って、打ち上げ中はそのメンツで楽しもう。ありきたりなルールでまさかの事態を起きた。私はクラスの中でも特に仲の良いメンツと全員別れ、私の向かいにはKがいた。
幸い、私がいたグループには海外研修を通じて話すようになったクラスメートがいたので、私は彼女と話していた。Kとも話した気がするが、友人達が何と言うのか気が気でなかったせいで会話の内容は全て忘れた。

打ち上げが終わり、店の外に出たとき、異様な雰囲気だった。
緊張感が漂っているような、なんとなくざわついているような。
帰りのバスに乗る時間が迫っていたこともあり、独特な空気から逃げたくなった私は、そっとクラスメートの輪から離れようとした。その時、誰かが私を呼び止めた。Kではない別のクラスメートの男子だった。当時の私は想定外の出来事が起こると、周りが見えなくなる悪い癖があり、この時もそれが発動した。
特別男子と仲が良いわけではないのに男子から呼び止められる理由が思いつかず、さらに謎の空気にこれ以上耐えられなくなった私は、一緒にバスに乗ると約束をした友人を置いて、バス停に走った。

彼の行動を待っていればクラスメート以上の関係になれたかもしれない

なんで今。これしか考えられなかった。
部活も心機一転頑張ろうと思っていた矢先になぜこんな出来事が、今何があったのか。追いかけてきた友人に、泣きそうになりながらぶつけていたと思う。
後日、別の友人から聞いた話では、あの日、Kは私に告白しようとしていたらしい。
だが私が逃げてしまい告白できずに終わったので、男子達から「次があるから」と慰められていた。まぁ、鈍感で恋愛経験皆無だった私のせいで「次」はなくなったと思うのだが。

3年間クラス替えのない学校だったので、私とKはその後も「ただの」クラスメートとして関係は構築されていた。
3年生の時、Kは他校のかわいい感じの女子と付き合っていた。二人が歩く姿を見てショックだった自分がいたことは事実だ。仲の良いクラスメートからは気を遣ってもらった。

高校卒業後、互いに別の予備校ではあるものの私とKは浪人をしていて、本屋で再会した。その時も「普通の」クラスメートとして話していた。もちろん、成人式も。

あの日、彼が行動するまでもう少し待っていれば、クラスメート以上の関係になれたかもしれない。たぶん、そうなる選択肢を与えていたら、私はYESと答えていただろう。
そうしたら私は今よりもっと恋愛に対して苦手意識を持っていないと思う。そうじゃなかったら、何度も占いで高校生の時の出来事が恋愛に対してトラウマになっていると出ないから。