もし、シンデレラが最初から「自分はシンデレラになれる」と分かっていたら、ただ願っているだけでもなれたのだろうか。優しい心を持ち続ける努力もせず、継母からのいじめに耐えたら私は世界一幸せなお姫様になれるのだから、今この瞬間だけ我慢しよう、と歯を食いしばって時がすぎるのをじっと待っていただけなら、どうだっただろうか。
シンデレラとは、継母にいじめられていた少女が、妖精の助けで参加することができた舞踏会で王子に見初められ、結婚して幸運を得るというお話しである。
本当にハッピーエンド?
こうして、私の妄想がはじまる。
明るい未来を想像したのに、いじめは終わらないし、王子様も現れない
私はシンデレラ。
今は辛い毎日を送っているけど、大人になったら結婚式で主役になれるから大丈夫。みんなが祝福してくれるの。
そういえば、今まで私にしてきたこと、忘れちゃったのかしら。でもいいわ。そのときは、私もここまで耐えてきて本当に良かったと思っているし、結果的にこうして私は幸せになれたのだから、継母のことも許してあげよう。
最初はそんな明るい未来を想像していた。
しかし、現実ではいじめは終わらないし、王子様も一向に現れなかった。
いつの間にか、頭の中の花嫁は、水色じゃなくて、真っ赤に染まったウエディングドレスを着て「復讐してやる」と叫んでいたの。
でもね、意外なことが起こった。人の機嫌を伺ってばかり生きていたら、逆に人を支配する術を身に付け、人に執着されるようになったの。おかげで継母からいじめられることはなくなったわ。
それと、きっかけはガラスの靴じゃなかったけど、王子様とも出会うことができて、これでやっと幸せになれると思っていた。
やっと出会えたのに怒ってばかりの王子様。私は孤独で、不幸だわ
ただ私は勘違いをしていたことがあったの。
それは、王子様のこと。
王子様とは、私が今まで苦労してきたことに対して価値を与えてくれるような、完璧な人のことだと思っていたの。つまり、みんなが憧れるような……。分かりやすく言うと、お金持ちで、イケメンで、背が高くて、お洒落な男性かしら。
でも、一見完璧に見える男性のリアルは違ったわ。お金がほしくて自分に近寄ってきているのではないかと怯え、僕のことを顔しか価値がないと思っているんだろうと怒っていた。
ああ、なんて可哀そうな王子様。
まわりのみんなや友達から「なんだ、王子様と結婚したんじゃなかったの」と失望されるのが怖くて、「シンデレラだから、仲良くしてたのに」と言われるのが怖くて、自ら関りを経ってしまった。最近は、鳥かごに入れて大切に育ててあげたはずの子供たちも、なんだか冷たいし……。私は孤独で、不幸だわ。
ああ、なんて可哀そうな私。
なぜ私は、シンデレラになれなかったのかしら。
大人になってやっと、母はシンデレラになりたかったのだと、分かった
妄想が終わると、私は泣いていた。
自分が大人になってやっと、母はシンデレラになりたかったの人なのだと、分かった。
でも、結婚とは、お互いを理解し合い、その上で優しい心を持ち続ける努力をすることだ。
それに、シンデレラには、なりたいとただ願うだけではなれない。
ごめんね、あなたをシンデレラにしてあげられなくて。