遠距離恋愛中の彼女がいるのに、仕事終わりに私の家へ直帰するようになった彼。初めは、お互いに名前を知ってるだけの、なんでもない関係だったのに。
いつしか、二人で朝を迎えるようになり、「いってきます」「いってらっしゃい」を言い合う夏の日が3ヶ月も続いてしまった。
「お姉さん」「お兄さん」と呼び合う、恋人ではない曖昧な関係の私達
彼は、3ヶ月だけ歳上である私のことを「お姉さん」と呼ぶ。職場での私の仕事振りをみて、なんだか「お姉さんみたい」だからと。
私は、彼の事を「お兄さん」と呼んだ。仕事に対する姿勢を尊敬していたし、立場上、彼の方が上だったから。
本当は、下の名前で呼び合いたかった。けれど、恋人ではない曖昧な関係である私達にとって、この呼び方はむしろ適していたのかもしれない。
あの日、彼女がいることを知っておきながら、仕事の相談をしてみよう程度の軽い気持ちであなたからの食事の誘いを受けていなければ、知らなくていいことがたくさんあった。
知れば知るほど、ダメだと思いながらも彼に惹かれてしまった
眼鏡を外すと子犬のような丸い瞳だったことも、目を細めてふわりと上品に笑ったり、ときにはくしゃっと笑ったりする屈託のない笑顔も。
朝起きると、布団から出て軽いステップを刻みながら踊るチャーミングな一面も、筋肉のついた熊のように大きな身体で芝犬のようにしっぽを振って甘えてくる姿も、騙されていると分かっていながら騙されている、気が弱くて心根の優しい性格も。
真面目で誠実、勉強熱心で仕事ばかりしている草食系のイメージなのに、実はちょっぴりスケベな一面も、大きくて柔らかい手も、重ねてはいけない薄い唇も、熱のこもった熱い視線も、甘い声も、全部、全部、全部知らなくてよかったのに。
でも、一番のタラレバは、ダメだと思いながらあなたに惹かれてしまったこと。
あなたのことを好きにならなければ、彼女に対しての罪悪感や後ろめたい気持ち、自分の倫理観に反してる事への葛藤や苦悩、私はあなたの彼女ではないからと、言いたい事を飲み込んで我慢しなくてすんだのに。
あの日に戻れるなら、彼と交わることのない人生を選びたい
スマホの画面を操作しているあなたを見て、彼女の姿を想像して嫉妬したり、ドロドロとした感情で狂いそうになる気持ちを押し殺して平然を装ったりせずにすんだのに。
あなたは囁くように小声で、「すき」「お姉さんのことすきになった」「あいしてる」と言ってくれたけど、私が一番欲しかった「付き合おう」という言葉はくれなかったね。
転勤が決まって家を出て行く時に、「お姉さんとも、彼女とも、さよならする」と言って、私達の関係は終わった。
あの日に戻ってやり直せるのなら、彼と交わるのことない人生を選択する。彼のことを好きな私はもうここにはいない。でも、あなたを好きだった私を忘れない。今考えると、片思いも何だかんだ楽しかったと思う。
今回の失恋が、次の私の恋につながってくれるといいな。