あの日に戻れたら、と考える度、決まって彼女が脳裏にちらつきます。
といっても、はっきりと顔を思い浮かべられる訳ではありません。人と目を合わせる事が苦手な私には、好いた人の顔をちらと見ることすら難しいから。
もしもあの日、自分の思うままに伝えられていたのなら、彼女が私のことを1番に想ってくれた日々があったりしたのでしょうか。未だに6年前から動けず、この恋心は息を続けてきてしまいました。
心を預けられた彼女に「好きかもしれない」と言われ、こぼれた言葉
あの日、幼なじみの彼女に付き合ってほしい、と言えなかったことが、私のなかでしこりとなっています。
当時、彼女には彼氏がいました。ですが、私に初めて恋人ができたと知った時に泣いてしまい、「私」のことが好きなのかもしれないと思ったそうです。
そう聞いた途端、歓喜と共に、失礼にも彼氏と付き合ったことに対する後悔がこみ上げてきました。実は彼が好きだった訳ではないのです。あの頃の私は寂しくて、それだけで告白を受け入れてしまったのです。
彼女は、人間嫌いの私にとって唯一心を預けられるような存在でした。親友だと、思っていました。それなのに、私はあの子に彼氏ができる度、家の狭いシャワー室で泣いていました。寂しくて、心から祝福できないことが申し訳なくて。
無二の親友と思っていた彼女から、「君の事が好きかもしれない」と言われて、私も、とぽつりと言葉がこぼれてしまいました。お互いに恋人がいたのにも関わらず。
その日から幾度か、私たちはキスをして、からだを合わせました。いま思い出しても、まるで夢でもみているかのような、現実味のない感覚でした。
言えなかった「付き合いたい」の一言。恋人ごっこは終わりを迎えた
ただ、彼といる時よりも甘い雰囲気だったことだけ、覚えています。私は彼氏をそっちのけで、彼女と会う度に胸を弾ませ、喜びを覚えていました。
しかし次第に、恋人を裏切っていることに対する罪悪感が日に日に重く、のしかかっていました。そうして暫くして、薄い付き合いを続けていた彼に別れを告げました。
あの日、彼女は「彼と別れた、もう冷めていたから」と言っていました。3日前、他の男に告白されたとも。
私は「あなたの事が好き、この先何があってもこの気持ちが変わることはない。けれど、彼と付き合うかはあなたが決めた方がいい」と伝えました。
それから数日を経て、あの子から彼と付き合う、と連絡がきました。他の人とはある程度好きだったら付き合えるけど、君とは本当に好きにならないと付き合っていけないと思うから、と。
どうして私は、付き合いたいの一言が言えなかったのでしょうか。彼女との関係を変えることが怖かったから?同性同士だから……?
それからも恋人ごっこは続いたけれど、2ヶ月程経て、もうやめよう、と彼女の方から切り出されました。
彼と順調に幸福な日々を過ごす彼女を見て、戻れなくてよかったと思う
もしもあの日に戻れたら、不誠実に付き合いを続けたりせず、彼女に真正面から付き合ってほしいと言えていたら、もしかして、と思う時が何度もあります。
でも私は、諦めてしまった。本音を押し殺してしまった。もしかしたら、に賭けることができなかった臆病者です。
彼女と私はいまも友人関係にあります。そしてあの子は、彼氏と順調に幸福な日々を過ごしています。その様を知って尚、私はあの日に戻れたら、などと夢想してしまうのです。
なんて傲慢!彼女が何ひとつ持っていない、からっぽな私のことを本当の意味で好きになる日はこないでしょう。
あの子が好きになってくれたなら、きっと私は幸せです。でも、それなら私はとっくの昔に幸せになっているはずじゃあ、ないですか。
もう、いいのです。あの日に戻れたとして、彼女の今の幸いを損なわせてしまうなど、とてもできません。戻れなくて、よかった。